兄はサンタクロース

クリスマス・イブの日

この聖なる夜に沢山のカップルがロマンチックな時間をおくる

そんな人にとってはこれ以上に幸せな時は無いであろう

だが、それにはもちろん「例外」もいる

仕事が忙しい。体調が悪い。相手がいない。

そんな人々にとってはこれ以上に面白くない日は無い。

ただ、そんな人の中にも「例外」がいることを忘れてはならない

少なくとも、この少女は例外の一人であろうか・・・






「ふぁ〜、眠いなぁ・・・」
大きなあくびをする一人の少女
頭にバンダナを巻いている。耳が横に長く伸び、ニューマンとわかる
「友達みんな忙しそうだし・・・ふぁ〜あ」
またひとつ大きなあくびをする。
ユキ・フロウ。クリスマス・イブの今日は依頼も無く、一人で自室のベッドに横になっていた。
「アトラスは今日も仕事。フィロウはベレッタのメンテナンス。
 三人とも今日位ゆっくりしたら良いのに・・・ふぁ〜」
またひとつあくびをして、もうすぐで寝ようかと思ったその時

ピピピ・・・

インターホンが鳴りはじめる。驚いてベッドから飛び起き
「びっくりしたなぁ・・・誰だろうこんな時間に」
不審に思いながらもドアの方へ向かう
「は〜い!」
ドアを開ける
「よう。元気にしてたか?」
そこにいたのは少し上目づかいにならないと見えないくらいの背
赤いシールドラインに白と黒の長袖
そしてこの懐かしい声
「お、お兄ちゃん・・・!?」
「いやー、もう寝ちまったかと思ったぜ。なかなか仕事が終わらなくてな・・・」
手を後ろにまわして苦笑いするヒューマンの男性。彼女の兄、ラルク・フロウだ
ユキは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに満面の笑みに変わり彼の胸に飛び込んだ
「おっ、俺のあげたバンダナちゃんとしてるのか。嬉しいなぁ」
抱きつく彼女の頭を優しくなでる
「この時期は仕事が大変だからって言ってたのに・・・どうして?」
「そりゃぁ可愛い妹のためなら、な」
ラルクの笑顔を見るユキの目には、微かに涙が浮かんでいた

二人は種族こそ違うがれっきとした血縁関係にある兄妹だ
小さい頃に両親がAフォトン研究中不慮の事故に遭い還らぬ人となってしまい
当時ガーディアンズに入隊したばかりの兄がなんとか生計を立てていた

ユキのベッドに並んで座る二人
「ゴメンね、食事も出せなくて・・・」
パートナーマシナリーはメンテナンス中で今はいない。
食事のほとんどは基盤を使っている為作れないのだ
自分で料理する事はもちろんできるのだが、材料もマシナリーにすべて渡してしまっていた
「いや、気にするなよ」
そう言ってユキの頭をなでながら

「お前の笑顔が一番のメインディッシュさ・・・」

一瞬呆気にとられたが、すぐに恥ずかしそうに頬を赤らめながら
「ばか・・・」
目からは涙があふれていた
「お、おいおい泣くなよ・・・何かマズイこと言ったかな・・・」
慌てて首を横に振る
「ううん、ただ・・・嬉しくて・・・ホント久しぶりに、お兄ちゃんに会えたから・・・」
もちろんガーディアンズの中でも友達や、親友はいる
だが、正直寂しかった。自分を一番理解してくれている。世界で一番優しい兄に逢えないことが。
そんな思いを有り余る優しさで包み込んでくれる兄との時間が何よりも嬉しくて、何よりも幸せだった
「スマンな・・・寂しい思いをさせて。今の仕事にケリがついたらすぐ帰ってきてやるから・・・
 それまで、もう少し待っててくれ。俺も時間があるときはこうして顔出す・・・」
先の言葉を塞ぐようにユキが倒れこんでくる
「・・・こいつめ」
ラルクに体を預け、小さな寝息を立てていた






「・・・あっ!」
ユキが飛び起きる。あたりを見回すがラルクの姿はもうどこにも無かった
ひどく落ち込んだ顔をしながらふとベッドの隅に目をやると、見慣れない服のようなものが置いてある
「こんなの持ってたっけ・・・」
綺麗にたたんであるその服をひろげてみる。ピンクと黒のワンピースと深い青色のロングパンツ
服の置いてあった下には、手紙が一通おいてあった
開いて読んでみる。

 愛する妹へ
  そんな寒そうな格好してないで、これでも使え

たちまち落ち込んだ表情が晴れる
シールドラインがあるとはいえ、確かにこの真冬に半袖とショートパンツは見ている方が寒くなりそうだ
「サンタクロースの・・・プレゼント・・・」

彼女の大切な宝物が、また一つ増えた日であった


おわり

あとがき
 そろそろこんな時期だなー、と思ってそれっぽいものを。
 何となくネタを考えていたら松任谷由美の「恋人はサンタクロース」が流れてきて
 身近なんだけど、とっても遠いところにいる二人をこの歌詞に見立てて作ってみました
 ちょっとベタベタしてるけど、たまには良いじゃん!
 ・・・いつもそうだと言われたら反論できませんけど(苦笑

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