A Rappy New Year (?)

惑星ニューデイズの夜。ミズラギ保護区を赤い影が走る。
ミズラギの木も広葉樹、この真冬では葉などついていない
ただ殺風景な木の幹と、遠くの山々が見えるだけである
しかし、彼女にとってはそれもまた良いものだ、という
 やっぱり、新年の初日の出はここに限るね・・・
赤い髪を結い上げたビーストの女性
アトラス・セーヴァント・イグザス。最近の働きが認められ、遂に最高危険度のミッションまで任せられるようになった
 仕事といっても時間制限があるワケじゃないし・・・のんびり新年を待とうっと
この保護区へは特別な事情がなければ入ることはできない
その為ミッションを受けるという形で合法的に居場所を確保したのであった
 町にいたって、自室にいたって誰かと一緒に祝うわけでもないし、こっちの方が気が楽だね
 でも・・・ちょっと寂しいけど・・・
少し表情が曇るが、またゆっくりと歩き始めた
その時だった。
 あれは・・・もしかして!
目の前に現れたのは黄色い影。紛れも無い、ラッピーの姿
 ラッキー!最高危険度のミッションで出会うラッピーは特別な装備を所持しているって専らの噂じゃない!
目を輝かせて紫フォトン刃のツインダガーに持ち替え襲い掛かろうとした瞬間
 「わ、わ、何もしないから許してッピー!」
 「・・・へっ?」
彼女の攻撃は寸前で止まった。

一人と一羽は手ごろな岩を見つけ、そこに座った。
このラッピーもまたアトラス同様初日の出を見に来たのだという
 「でも、なんでグラールの言葉を話せるの?」
普通この質問から入るのが定石であるが、そこは彼女の分け隔て無い性格ゆえだろう
例え普段は倒すべき敵であっても、このように同じ言葉を話せるなら、例え一時の間でも友達になりたかった。
それに彼女自身彼ら原生生物たちと話がしたいという夢もあった
 「うーん・・・物心つく前から話してたらしいッピ。だからよくわからないッピ・・・」
 「そっか・・・。じゃあじゃあ、ひとつお願いがあるんだけど・・・」
何かと思いアトラスに視線を合わせるラッピーに、彼女は満面の笑みで
 「一度でいいからぎゅ〜ってしてみたかったの!ね、いいかな!?」
 「い、いいけど・・・痛くしないッピ?」
その言葉が聞こえているのかいないのかわからないうちにラッピーを自分の膝の上に乗せて抱きついた
 「うわぁ・・・ふわふわで気持ちいい・・・」
今までのどんなものよりも柔らかい感触と心地よさ
彼女はすっかりそれに魅了されてしまい、手に伝わる程よいぬくもりの虜になっていた
 「え・・・えーと・・・ボクはどうしたらいいッピ・・・?」
ラッピーはオスだったようで、少し恥ずかしそうな様子であったがアトラスはお構いなしだ
 「ん〜可愛い♪」
この時、彼女の無邪気な笑顔を見ていたラッピーは何かもの悲しげな様子だった

 「と、ところで・・・この大晦日の日に、何で一人でこんな場所にきたッピ?
  友達と新年を祝ったりはしないッピ?」
未だ飽きずにラッピーを抱きしめるアトラスにその言葉を投げかけた瞬間
一気に彼女の顔が曇り、今にも泣き出してしまいそうになってしまった
流石にラッピーもそれに気付き
 「あ・・・え、えっと・・・変なこと聞いてゴメンッピ・・・」
慌てて話を逸らそうとする
 「ううん。いいんだ・・・」
そう言って笑ってみせた。だが、無理矢理の作り笑顔だということくらい、誰が見てもわかった
 「グスッ・・・そうだよね、おかしいよね・・・もう少しで、新しい年になる記念の日なのに
  こんなところに一人でいるなんて・・・友達がいない証拠だよね・・・」
彼女の頬を伝う熱いものがラッピーの頭に落ちる
それを何度も手で拭おうとするが、目から止め処なく溢れ出し、もはや止められる筈も無かった
 「あれ・・・おかしいな・・・孤独には慣れてるはずなのに・・・
  寂しい気持ちを紛らわすために毎日仕事でスケジュールを埋めてきたのに・・・
  どうしてだろう・・・どうしてこんなに涙が出てくるんだろう・・・」
なんとかして笑って見せようとしているが、その笑みはあまりにも痛々しいものだった
 「・・・ボクも」
落ちてくる雫を受け止めていたラッピーが彼女の方を見て
 「ボクも・・・友達なんていないッピ
  グラールの言葉を話せるから、ただそれだけで皆から差別の目で見られるようになって・・・。
  気付いた時にはボクの周りに仲間なんて誰もいなかったッピ・・・」
そう言ってうつむく

暫しの沈黙の後

それまで必死に耐えてきた孤独感や、抑え付けてきた感情が何処からともなくこみ上げ
ラッピーをさっきよりも強く抱きしめ、顔をうずめ零れ落ちる熱い雫と共に声を上げて泣き出した。

抱きしめられたラッピーは、彼女をなぐさめる様にその顔をなで続けるのであった






一体どのくらいの間泣いただろうか、自分でもわからなくなっていた時
 「お〜い!アトラス〜!どこかなぁ・・・」
遠くから聞き覚えのある声がしたことに気がつく
その声のした方を見ると、小さな影がこちらに近づいてくることがわかった
もうあたりも暗く、それが誰であるかはわからない
しかし、その声の主が誰であるか、彼女には手に取るようにわかっていた
 「あっ、みっけ!もぉー、探したんだからね!」
 「ベ・・・レッタ・・・何で・・・?」
その声は紛れもない、ベレッタの声。しかし、本来ここにいるはずがない
いつだってフィロウと一緒のベレッタだ、この新年を迎える記念すべき日は当然フィロウの近くにいるはずだったからだ
 「あれっ?その羽・・・もしかしてラッピーの羽!?いいなぁ・・・拾ったの?」
その言葉を聞いて自分の足元を見る。ついさっきまでいたはずのラッピーの姿は、もう何処にもなかった
そこにあったのは一枚の羽と、それよりもっと小さい、羽毛のような羽がいくつも落ちていた
 「えっ?あ、あぁ・・・そうそう、偶然見つけたの」
急いで涙を拭い取ると、ベレッタが不思議そうな目をするが、またすぐいつもの笑顔に戻り
 「それより、みんな待ってるよ!早く行こっ!」
そうせかす様にアトラスの服をつかんで引っ張る
 「あ、わわ、ちょっと待ってって!」
落ちていた羽を慌てて拾い集め、ナノトランサーにしまいこむ
そして力任せに引っ張って走るベレッタにつられるようにして走り出した

 「早くしないとカウントダウン始まっちゃうよー!」

新たな年の幕開けまで、あと少しだ


おわり



あとがき
もう新年が目の前に迫ってますねぇー・・・
彼女は無事、新しい年を迎えられる「場所」を手に入れることができました
皆さんはどうですか?誰かと一緒に新年を祝う予定はありますか?
誰かと一緒でも、一人でも、楽しく新年を祝いましょう♪
2007年が皆さんにとって良い年でありますように。

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