Intrige Schwert 第1話

 「・・・はっ!?」
ガバッという効果音が聞こえてきそうな勢いでベッドから飛び起きる
まだ薄暗い部屋。私は目をこすりながら今見ていた夢を思い出す
 はぁ、嫌な夢を見た・・・。あんな戦場には行きたくないな・・・
ゆっくりとベッドから降り、辺りを見回す
 「くー・・・くー・・・」
 寝てる・・・それもそうか、こんな暗いのに起きる筈も無い
自分のベッドの隣にもうひとつベッドがある。そこに寝ているのは一人のエルフ
綺麗な金色のショートヘア。子供のように小さな体
 可愛い・・・ちょっと悪戯しちゃおっかな
 普段は私より先に起きてるからこんなことできないけど・・・
 今日くらい大丈夫だよね・・・起きないよね?
鼻をツンツンと突付く
 「うみゃ・・・にゃうぅ・・・くー・・・」
仰向けに寝ていた少女は2〜3度鼻を突付かれると嫌がるように背中を向け
また小さな寝息をたてはじめた
 そんな可愛い声を聞いちゃうと・・・もっとやりたくなっちゃう・・・
私の手が少女の胸のふくらみに伸びていく
 年齢的には私より年下なのに、私より大きいなんて、ズルイ・・・
しかし、それに触れる寸前で手が止まった
 い、いや・・・これじゃ寝込みを襲ってるみたいだ・・・やめよう。
 そっ、それに私は何を変なこと考えてるのよ!
手を元に戻した瞬間、目の前の少女がゆっくりと目を開いた
 「ふにゃぁあ〜・・・あれ、クレア? 今日は早いね」
 「えっ!? あ、あぁそ、そうだね・・・」
ついさっきまで「変な事」を考えていた私はまだ気持ちの整理がついておらず
突然のことで気が動転してしまっていた
 「・・・私が寝てるときに何か変な事したでしょ?」
まるで心の中が見えているかのように的確な突っ込み
そのジト目が慌てる私に追い討ちをかけるようにして突き刺さる
 「べ、べべべ別に何もしてないよっ!?」
 「クスッ、クレアはわかりやすいなぁ・・・バレバレだよ」
私は苦笑いして応えるしかなかった

 「ところでクレア。何で今日はこんなに早いの?何か用事でもあったっけ・・・」
朝食のパンをかじりながら話すこの少女
名前はリリィ・クライズン。人間とは違う、エルフの仲間だ
彼女の話では宿り主であった木が13年前に切られてしまい、こうして下界に降りてきたのだという。
 「ううん、用事は何も無いよ。ただ・・・ちょっと嫌な夢を見てね」
苦笑いしながらコーヒーに口をつける。途端に驚いてカップを元に戻す
 「けほっ! けほっ・・・砂糖入れてなかった・・・」
 不覚・・・苦くて飲めたものじゃない
スプーンいっぱい砂糖を入れ、カップへ。
この年でまだブラックコーヒーが飲めないとは、情けない話だ
 「あははっ、まだクレアも子供だなぁ・・・」
 うう・・・自分が飲めるからって・・・わざと砂糖入れないで出したな・・・
少し涙目になりつつ再びコーヒーに口をつけた

クレア・シルフィード。そう、私の名だ
自分で言うのも難だがリリィの言葉をそのまま引用すれば
容姿端麗で大人しい性格。"普通"なら多くの男性がアプローチしてくるであろうとのこと。
しかし、私に寄り付く男性は皆無であった
何故なら
 「・・・ふふっ、まだまだね。出直しておいで」
 「く、くっそー・・・」
微笑みながら手を振る。手には一本の木刀
 う〜ん・・・本当に私に勝つ人が出てきたら付き合ってあげても良いんだけどなぁ・・・
そう、私に剣の腕で勝るものが誰一人いなかったのである
町の中にある道場。道場主が門下生共々失踪し、誰も使っていないようなので私が勝手に借りさせてもらっていた
そしてまた一人、腕に自信のあったという男性が肩を落として去っていった
いつもこうしてアプローチしてくる男性に「自分に勝ったら付き合っても良い」と条件を提示しているのだが
今まで私に勝てたものは誰一人といなかった。
 今日もいなかったなぁ・・・でも、焦る事じゃないし。
良かったような、良くなかったような、複雑な気持ちで木刀を片付けようとしたその時
 ちょっと待ったあぁーーーーっ!!!
突然ものすごい大声が道場に鳴り響く
驚いて声のした方向を向くとそこには一人の男性の姿
 「最後に俺と戦ってもらえないだろうか!」
 「べっ、別に構いませんけど・・・」
その言葉を聞くと男性は木刀を取り出し
 「勝負!!」

3分後

 「う〜ん、もうちょっとだったね」
 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ま、参った・・・」
勝ったのは私。相手もかなり善戦したが途中スタミナ切れを起こしたようで失速
結局私の一撃で彼の木刀は真っ二つに折れてしまった。
 「でも今日戦った中では一番手強かったよ。体力がつけば十分戦えるようになると思うから」
そう言い残し木刀を片付け、道場を出ようとした時
目の前にその男性が土下座するような形で座り込んだ
 「クレアさん! いや、姉御! 恥も外聞もないッス! 自分を弟子にして下さい!」
深々と頭を下げられ、私は驚き慌ててやめさせようとする
 「そ、そんなこと言われても困るよ! ホラ、他の人も見てるから・・・」
周りの視線が明らかに二人に注がれているのがわかる。
 「それに、私の剣技は自分でも良くわかってないから教える事なんてできないよ・・・」
 「それでもいいッス!お願いします!」
少し考えて、この熱意に負けたのか、周りの視線が恥ずかしかったのか
 「と、とりあえず家で話は聞くから・・・立って立って」
立つように促す。すると男性は顔を上げ
 「本当ですか!? 自分、どこまでもついていく覚悟ッス!」
 「そ、それも困るなぁ・・・」
恥ずかしくて顔から火が出るほど熱くなっていた


第1話 完

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