Intrige Schwert 2話

私の自宅――
留守番をしていたリリィは私の疲れきった表情と
後ろについてきた一人の男性を見てただただ唖然とするばかりであった

私は家までの道のりで色々と彼についての情報を得た。
名前はレリク・ステッグ。年は私よりひとつ下の18歳
3年前両親を亡くし、それから2年間「己を見つめなおす旅」に出ていたそうだ
 「それで、どうしてクレアの弟子になりたいなんて言ったの?」
リリィがレリクに尋問(?)している
 「自分は姉御の戦いをずっと見てきたッス。次第にその剣の技に惹かれていきやした
  それで、気付いたら姉御に戦いを申し込んでて・・・今に至るッス」
ここでひとつ口を挟む
 「ね、ねえ・・・その"姉御"ってやめようよ・・・普通にクレアで良いからさ・・・」
しかしレリクは間髪いれずに
 「いえ! これは譲れないッス! 自分の姉御に対する尊敬の意をこめての呼び方ッスから!」
この意思は変えられないと悟った私は頭を抱えるしかなかった

 とりあえず、返事をあいまいにしておけば向こうも諦めてくれるだろう・・・

この考えが後々大変な後悔を生むことになるとは、当時思ってもみなかったことだ

 * * *

 「う〜ん、まだまだ。」
 「残念・・・」
朝の道場でまた一人落ち込んだ表情で男性が去っていく
もう日常茶飯事になってしまったとはいえ、よくもこれだけ男性が私にアプローチするなぁと考えていた。
何度も挑戦してくる人だってたくさんいるのだ
 「そりゃあ、姉御の美貌に惚れたんッスよ」
あの日以来毎日私の稽古に付き合ってくれる(勝手についてくるだけなのだが・・・)レリクに茶化され、思わず顔を真っ赤にする
私は自分でも自覚しているほど、極度の恥ずかしがりだ
 「あっはは! それもまた男にとっては魅力なんッスよ」
 「む、むー・・・」
そうなのかもしれないが、人が恥じらうのを見て何が楽しいんだ!
しかしこれ以上反論しようとしてもどつぼにはまるだけだと思い、その言葉は飲み込んだ

 「さて姉御、今日の稽古は終わりッスか?」
 「うーん・・・。ならもう一度やろっか?」
このレリクもかなり腕を上げていっていた
もうこの国の兵隊たちとひけをとらない位の力量だろう
でも、私には勝てない。今日の稽古でもまた、彼の喉元に木刀があてがわれていた
 「やっぱ・・・姉御には勝てないッス・・・」
 「でも、随分腕は上がってきてるよ。もうすぐ私もちょっとミスしたら危なくなってきそうだもん」
 「ですがこれも、姉御の弟子として日々鍛錬をしてきた結果ッス!」
 「ま、まだ弟子って認めたわけじゃ・・・っ!」
驚き慌てる私の耳に、突如けたたましい鐘の音が聞こえてきた

 「敵襲だーっ! ドゥミナスのヤツラが攻めてきたぞー!」

その声を聞いた私とレリクは思わず顔を見合わせ
 「奇襲!? とりあえずレリクは安全な場所に避難よ!」
 「姉御はどうするんッスか!?」
 「リリィを捕まえに家に戻る! あの子のことだから絶対パニック起こしてる!」
そう言い残し道場から飛び出そうとすると、レリクは突然私の腕をつかんで
 「大切な師匠をお守りするのも、弟子の大切な仕事ッス」
 「だからそれは違っ・・・! もうっ!行くよ!」
これ以上師弟関係の話をしている場合でないのはお互いわかっている
全速力で私の家に向かった

何とか敵が進軍してくる前に戻ってくることができた
扉をバタンと開く。その刹那、部屋の隅でカタカタと震えているリリィの姿が見えた
大慌てで彼女のもとに駆け寄り
 「リリィ! もう大丈夫、私はここにいるよ」
 「クレア・・・怖かった・・・よぉ・・・」
少し息苦しくなるほど、強く抱きしめられた。それほど怖かったのだと容易に想像がつく
これも「あの時」の影響であることは私も良く知っている
この事については後々詳しく話すとしよう。それよりも、敵はすぐ近くにまで迫っていた。
 「おい、お前たち早く非難しろ! 防壁が破られそうだ!」
扉の方から兵士らしき声がして、私もリリィも我にかえった
 「レリク、あなたはリリィを連れて安全なところへ。
  もう時間が無いから避難場所には行けないかもしれないけど、何処かに隠れられる場所くらいはあるはずよ
  私は防壁防衛に加勢してくる。この町には一歩も入れさせない・・・!」
部屋にかけてある一本の諸刃作りの剣に手をかけ、背中まで伸びた髪を結い上げる
そして手首にガードをはめると一目散に外へ飛び出す

・・・はずだった

飛び出した扉の先にはレリクとリリィが笑みを浮かべながら待っていた
リリィは弓を、レリクは柄を中心に二手に刃が伸びた不思議な形の剣を持っている
 「ど、どういうつもり・・・?」
おもわず変な声を出してしまった
 「どういうつもりもなにも、姉御一人に美味しいところを持っていかれるわけにはいかないッス」
 「もう隠れるより、戦って追い払っちゃおうよ!」
 「ダメ! 遊びじゃないんだよ!? 少しでも間違えば・・・っ!」
その先の言葉を制すかのように、周囲に地鳴りのような轟音が鳴り響いた
遂に防壁への攻撃が始まったのだ
 「姉御、自分は言いましたよ。どこまでもついていく覚悟、と」
 「早くしないと・・・!」
私はこれ以上二人を説得しても無駄だとあきらめ
 「・・・んんもう! 絶対に危険なことはしちゃダメだからね!」
轟音のする方へ走り始める。後ろから二人のクスクス笑いが聞こえてきたが、気にせず門へ向かった


第2話 完

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