Intrige Schwert 4話

スタングウェイの町。活気で溢れていて、私も大好きな場所だ
領土が海に面している事もあり、外国との貿易が盛んで
町を歩いていると時々此処の大陸外の民であろう人を見かける
 「マリアさん!」
私はある人に声をかける
 「あら、クレアちゃん・・・奇襲攻撃なんてビックリよねぇ。大丈夫だった?」
40歳位のこの女性。私の家の隣に住んでいて、母を亡くしてから特に優しくしてもらっている
 「はい。ちょっと逃げ遅れましたけど無事ですよ」
 「それは良かったわ〜。クレアちゃんがこんなにちっちゃい時から知っているんだもん、気にしちゃうわよ」
そういうと大体私の胸辺りの高さに手を出す
この人は私の記憶が始まった頃からずっと知っている。もう家族のように親しいのだ
 「ふふっ。じゃあ、待ってる人がいるから、また今度」
 「あら、彼氏でも出来たの? もうそんなお年頃だしねぇ」
 「ちちっ・・・違いますよっ!」
まるで私の反応を楽しんでいるかのように笑いながら
 「冗談よ! さ、行ってらっしゃい」
まだ紅潮した顔でそそくさとその場を後にした

 「リリィー! レリクー! 遅くなってゴメン」
城門の手前で待ち合わせていた二人と合流する
私は先程の女性に無事を伝える為先に城門へ向かってもらっていたのだ。
私の声を聞いた二人は何か訳アリな表情でこちらに近づいてきた
 「ど、どうしたの・・・?」
流石に不思議に思い問いかけると、リリィが小声でこう答えた
 「なんか、あそこにいる兵士がしきりに私たちの事を見ては何か話してるみたいなの・・・」
城門の前に二人の門番が立っているのが見える
確かにこちらを見ながらなにやら話をしているようだ
 「ああ・・・やっぱりあのちょっと強面の隊長とやらに怒られるんッスかね・・・」
 「ま、まぁ考えてても仕方ないし・・・とりあえず、行ってみようよ」
少し苦笑いしながら城門に近づく

 「あのー・・・」
と、私が次の言葉を発しようとする前に門番の一人が怯えた様な表情で
 「ク、クレア・シルフィードさんですね? ど、どどどどうぞお入り下さい・・・っ!」
これに私はふたつ大きな疑問を持った
まず何故私の名前を知っているのだろう? 自分で言うのも難だが私はそこまで有名人じゃない
ましてや城の人間となんて全く関わった事すらない。
 それなのに何故・・・? それに、何でこんなに恐れられてるの? 私・・・
なんだかよく分からないが、とりあえず通してくれるようなので気にせず進む事にした
 「絶対怪しいよね・・・あの口調、何か恐ろしいものでも見たような感じだったもん」
リリィが先程のように小声で話しかける
 「うーん・・・確かにちょっと怪しいなぁ・・・」
防壁防衛時の事を思い出しながら、城の扉を開いた
応接間は城の入ったすぐの場所だ

城内はかなりの広さだ。天井がものすごく高い
シャンデリアの様なものが吊り下がっていて、周りはガラス張り。よく光が差し込んできていてとても明るい
 「これは驚いた・・・遠目から見る時よりも全然大きいッスね・・・」
3人とも暫くはその広さに圧倒されていた
ひとしきり辺りを眺め終えて視線を前に戻すと、あの私たちを此処に呼び出した男性が歩み寄ってくるのが見えた
 「よくきてくれた。早速で申し訳ないのだが、ひとつ確認しておきたい事がある」
唐突に私をじっと見つめ
 「クレア・シルフィード・・・本名か?」
 「そ、そうですけど・・・?」
 「では、先程のドゥミナスによる奇襲攻撃の際、敵軍のキュクロプスを倒していたのは事実か?」
 「た、確かに。詳しく数は覚えていませんが・・・そうですね」
 「ふむ・・・では後ろのお二人」
今度はリリィとレリクの方に視線を移した
 「君たちについては資料が無かったから調べさせてもらった
  リリィ・クライズンとレリク・ステッグ・・・間違いないな?」
二人は軽くひとつ頷いただけ
 「君たちは先程の奇襲攻撃の際、敵軍の主力部隊と思しき集団を壊滅させたと聞いたが・・・事実か?」
少々考えるような仕草を見せた後、レリクが少し笑みを浮かべながら答えた
 「ああ・・・通りでなかなか骨のある連中だと思ったら・・・なるほど。確かにそれは自分とリリィ姉さんッスね」
その返答を聞くと男性は少し考えるような仕草の後
 「わかった。では立ち話も難だ、こちらへ」
私たちは男性に促され城の更に奥へと進んで行った

通されたのは作戦室のような部屋。中央に巨大な机があり、そこにはこの大陸の地図がある
 「紹介が遅れた・・・。私はスタングウェイ公国軍遊撃隊隊長スレイ・バドール
  君たちを呼んだのは他でもない。単刀直入に言おう、この遊撃隊に所属する気は無いだろうか?」
あまりに単刀直入すぎるこの言葉に、私は耳を疑った
 「えっ・・・ゆ、遊撃って戦闘のベテランやスペシャリストが配属される役職でしたよね・・・?
  そんなところに・・・ですか・・・?」
遊撃とは読んで字の如くどの部隊にも所属せず、自分の判断のみで戦闘を行うというもの。
戦闘の腕が超一級品であることは当たり前。それに加え戦況を的確かつ素早く分析、判断する能力まで問われる役柄なのだ
 「だからこそ君たちをわざわざ此処までお呼びしたわけだ。此処へくるまでに会った兵たちが皆怖がっていただろう
  あの兵たちの様子が君たちの活躍の証だ。これで、お分かり頂けたかな?」
 「と、言われてもぉ・・・二人とも、どうする・・・?」
こればかりは一人で決断できる事ではない。
リリィとレリクの意見を聞いてからにしようと思い、問いかけてみると
 「そりゃー、やるしかないッスよ! 姉御! 自分たちを必要としてくれてるんッスから! ねぇリリィ姉さん?」
 「何でいつの間に姉さん呼ばわり・・・」
頭を抱えるリリィであったが
 「私は、クレアと一緒なら何処でも行く!」
そう満面の笑みで答えた。
 「それなら・・・スレイさん。いや、スレイ隊長。これから宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる
 「よかった・・・君たちならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう」
がっちりと握手する
――私たちは、こうして正式なスタングウェイの兵士になる事となった。

 * * *

私たち3人は隊長に連れられて遊撃隊のメンバーが集まるという酒場に案内された。
勿論、この酒場も城の中にあるものだ。入り口入ってすぐのところにカウンター席が縦に10席程並んでいて
その右側にテーブル席が6個。ひとつのテーブルに4人座れるようになっているから24人分だ
酒場にしては結構広い・・・のだろうか。
 「一人メンバーが来るはずなんだ、少し待っててくれ」
隊長の話では、私たちが入隊するまでは隊長と、もう一人しかメンバーがいなかったらしい
適時別の隊からメンバーを徴収しているのだそうだ。
 「隊長〜、話ってのは一体何ですかい?」
 「おおシルフ。ようやく来たか」
シルフと呼ばれたその男性は、一瞬巨大な熊でもやってきたのかと思うくらいの巨漢で
いかにも野人といった風貌。背中にはリリィと同じくらいの長さをした巨大な剣を担いでいる
彼はそのインパクトの強さにあっけにとられた私を見て
 「ん〜? なんだ、隊長のコレか?」
そう言うと小指を立てる。それが意味するのは・・・
 「ふぇ・・・そ、それはちが・・・っ!!」
 「なんだ、顔が真っ赤だぜ? がっはっはっは!」
恥ずかしさのあまり下を向くしかなかった
 「冗談はその辺にしておけ、シルフ。彼女が例のクレア・シルフィードだ」
私の名前を聞いた瞬間、シルフの目つきが一気に真剣なまなざしへ変わった
 「へぇー・・・こんなウブな女がキュクロプスの大群をねぇ・・・
  んで、ここにいるってことは見事隊長が遊撃隊に口説き落としたってわけか。なるほど面白くなってきた」
ニヤリと笑みを浮かべる。
 「紹介が遅れたな。彼はシルフ・オーディーン。遊撃隊のメンバーだ
  少々荒っぽいが・・・これでなかなか饒舌な奴だから、仲良くしてやってくれ」
改めて私たちもシルフに自己紹介すると、私とシルフは同い年だったことがわかった
 「ぐわっはっは! これも何かの縁だ、宜しくな!」
何の縁かは別にして、確かに悪い人ではない――そう感じた。
今日はもうすぐ夜になるという事で、細かい事や手続きは明日にまわすこととなった

この日から、今までに無いほどたくさんの出来事が私を待ち構えているのだった――


4話完

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