Intrige Schwert 7話

突然だが、私は父親の顔を一切覚えていない。
私の記憶は父親の葬儀より以前にさかのぼる事ができないからだ
何故かと言われても、私にはわからない。
もしかして、何か恐ろしい事に巻き込まれてしまっているのではないか・・・
時々、そんな考えが頭をめぐり怖くなる
習ってもいない剣術で遠い国から挑戦者がきたり、軍の中で英雄扱いされたり
私にとって、それら全てがとても怖い。
このまま、こうしてこの国にいても良いのだろうか・・・?

 「・・・レア・・・クレア・・・!」
その声で、私はハッとした
 「は、はいいっ!?」
 「大丈夫か? さっきからずっと呼びかけてるのに全く反応が無かったぞ」
スレイの声だ。そこでようやく私の今ある状況を思い出した
 そうだ、今から報復攻撃を仕掛けるんだったっけ・・・
先日行なわれた奇襲攻撃の報復として、大々的な報復攻撃を開始するのだそうだ
当然の如く遊撃隊も駆り出される事となり、私とリリィ、レリク
シルフにスレイ、武道の6人で初めて攻撃を仕掛けることになった。
今は馬車に乗って敵の陣地へ向かっているところ。
他の隊から徴収する必要も無くなったと、シルフとスレイは嬉しそうだ
武道は瞑想中。昔から戦に出かける前はいつもこうしていたのだと言う。
特に緊張した様子もなさそうで、むしろ早く戦いたいと楽しそうなのはレリク。
リリィは心持ち緊張した様子。出かける前からずっと私の腕にしがみついたままだ
 「そろそろだな・・・」
シルフの声を聞き外を見ると、大きな城が見えた
 「あれがドゥミナスの城だぜ。周辺には投石部隊がうじゃうじゃいるらしい」
それを聞いた瞬間リリィがピクッと反応して、しがみついていた私の腕を更に締め付ける。
確かに巨大な城だ。所々に見張り台だろうか、ぽっかりと穴の開いたようなところが見える
初めて見る城。だが、私の心には何かつっかかりが残っていた

どこか、初めて見たのに、昔に見た事があるような――

遊撃隊は以前にも述べたとおり、隊の指示を受けず全て自分の判断で戦闘を行なう
いきなり敵将を潰しにかかったりすることだって事実上可能ではある。
 「よし、本隊が動き始めたようだ・・・私たちも行くぞ! 今回の目的はあくまで敵戦力の削減
  敵陣に深々と攻め込む必要はない。それ以外は全て自由だ」
スレイが馬車から飛び出す。続々と他の仲間も飛び出し、私もそこから降りた
その頃にはリリィも随分と元気を取り戻し、私の腕は軽くなっていた。
 「では解散! 皆無事で帰ってくるんだぞ」
それだけ言うと、全員思い思いの方向へ散っていった。
 「さて、今日も100人斬りしてくるぜ!」
 「無駄な殺生は好まんが・・・攻撃を受けているとあらば仕方あるまい」
 「姉御、リリィ姉さんを借りていくッス。敵の主力だろうが本隊だろうがまとめて倒してきますよ!」
 「絶対に、無茶したら・・・ダメだからね?」
全員いなくなったのを確認して、私も歩き始めた
 とりあえず、おされているところの援護に徹しよう・・・

ここは戦場。戦闘というのは唐突に始まるものである。
馬車から随分離れたところまで歩いてきた時だった――
私の後方から、顔をまさにかすめる様にして一本の矢が飛んできた!
とっさに後ろを振り返ると、馬に乗った男性がこちらに向かってきているのが分かった
剣を抜き、敵を睨む――
 「ふむ・・・女が戦いに参加しているとは、あの国も堕ちたものだ」
いかにも嫌味ったらしく言うその言葉に少しムッとするが、ここで挑発に乗ってしまっては相手の思うツボ
 「そんな見た目だけで人を判断するような人が良い格好をしている国こそ、随分と堕ちたんじゃないですか?」
 「面白い、口だけは達者だ。そこまで言うなら相手をしてやっても・・・ん?」
相手は私の持っていたその剣を見つめているのが分かる
そして、とんでもない一言を放ってきたのだ。
 「まさか・・・クレア! クレア・シルフィードではないか!?」
 「え・・・? なんで、私の名を・・・」
まさか敵国にまで私の名が知れていたとは、思いもしなかった
しかも、自分の剣を見られただけで・・・。
そんな困惑している私を見て、相手は更に私の驚く一言を言い放った
 「俺だ、グラン・シルフィードだ! 覚えてないのか・・・?」
 シルフィード!? 私と同じ名前が、どうして!?
もうパニック状態だった。敵国に同じ名前の人間が、しかも私を知っている人物が現れたのだ
 「この9年間、お前は何処にいたんだ・・・俺に何も言わぬまま、家族ごと! どうしてなんだ!?」
 「い、言ってる意味がわからない・・・私はあなたを知らないし、敵国に知り合いを持った覚えもないわ」
驚きと戸惑いの中、何とかして言葉を見つけ出しそう答えた私に、相手はひどく落胆した様子で
 「記憶を失っているのか・・・。ならば、仕方あるまい」
相手は何かサインのようなモノを誰もいるはずの無い私の後ろに送っているようだった――

しかし、それは私の判断ミスだった

 「うっ!? うぐ・・・あ・・・!」
気づかない間に、何者かが私の背後に忍び寄っていたらしい
全く無防備だった後ろから、その何者かに首を絞められる
突然のことで、思わず剣を落としてしまった。カラン、と金属独特の音がして地面に横たえた
 「仕方ない、何としても思い出してもらわないといけないからな。我が国の為に、俺の為に・・・」
何とか逃れようと、できうる限りの抵抗をするのだが全くの無駄だった
所詮、女の腕力では限界があったということだろうか・・・

抵抗むなしく、私は意識を失った――


7話完

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