PAST OF PHANTASY9話

こじ開けられた扉を見るとなにか打撃系の武器で殴り壊されているのがわかる
「うわー、誰の仕業だろう・・・」
メイが近づいてよく見る。扉の電源は完全に落ちていて、近くにあるスイッチまでひしゃげている
「修理をお願いしないとダメですね・・・このあたりは凶暴化した原生生物が多いですし、扉のセーフティロックがうまく作動しないと
 原生生物の被害が大きくなっちゃいますよね」
アテナはひしゃげたスイッチを見つめる
「大丈夫でしょ、この辺の原生生物なんかそこら辺にいるハンターズでも十分倒せるような相手だし」
扉の向こう側に背を向けて話している
「大体弱すぎなのよね、このあたりのやつらは・・・もうちょっと骨があってもいい.・・・」
不意に後ろを向いたブラックの目の前に人が一人立っている
「お前・・・誰だ」
「あ、アンタこそ何者・・・あ!金髪、アタシより背がちょっと高い・・・ポルセニじゃない?」
「兄さんのことを知ってるのか・・・用がなければ来るな」
手をぽきぽきと鳴らす。瞳の色が赤いということ以外朦朧とする意識の中で見たポルセニの姿に酷似している
話し方は冷徹で、さっきから表情一つ変えない
「せ、先輩・・・知り合いですか?」
「あ、アンタはわかんないか。コイツとそっくりの、というかお兄さんだっけ?にアタシらは助けられたのよ」
と、右手をあげてフォーマーを指差す。すると突然あげた腕をつかまれものすごい力で握られる
「いっ!?痛い痛い痛い!は・・・離して!」
あまりの痛みと驚きが重なって口調は強気だが顔がゆがみ、涙を流す
「わっ!す、すまんすまん弟が何かやらかしたみたいだな。悪かった」
フォーマーの口調が突然一変し、瞳の色が青くなる。つかんでいた腕を離す
「痛いじゃない!もう最低!」
「わ、悪かったって・・・弟に代わり俺が謝ろう」
「え、えっとあの・・・弟っていったい・・・それに目の色が違う気が・・・」
メイがフォーマーの変化に疑問を感じる
「あぁ、話せば長くなるが・・・簡単に言うと弟クラインは俺の中にいるんだ。ここにな」
そういうと胸の辺りをぽんと叩く
「それって二重人格ってことですか・・・?」
今度はアテナ
「いや、それもまたちょっと違う。もともと二人は別々の体を持っていたんだが、ある事件で一緒になっちまったってところだ
 それはそうと、もう動いて平気なのか?以前はピクリともしなかったんだが・・・」
それを聞いたブラックは今話している相手がポルセニだということにようやく気づき
「あ、あの時はありがと。おかげで二人ともこの通り生きてるわ」
「そうか、ならよかった。それじゃ俺はこの扉の修理を依頼してこようかな
 全くクラインのやつ派手にやりやがって・・・またな」
4人の頭の上をひょいと飛び越えて消えていった

「不思議な人ですね・・・明らかに二重人格なんだけどなぁ・・・」
「世の中には不思議なことがいっぱいありますね・・・」
「それはいいけどまだ腕が痛いわよ・・・どんだけバカ力なのかしら」
3人がポルセニのことについていろいろ話をしている。一方のアカロロはというと・・・
「んーっ、えい!」
持っていたチャオの杖で遊んでいた。杖を振り回して周囲にある箱を叩き壊している
「って、ロロちゃん!何やってるの!」
アテナがようやく気づいたようだ
「うん?見ての通り♪」
壊した箱の残骸があちこちに散らばっている
「あーあ・・・私もやりたかったのに!」
「お姉ちゃんたちと話してるからだよーだ」
「うー・・・」
アテナも話し方は大人だがまだまだ幼い面が残っている
「って・・・ちょっとおかしくない?」
ブラックの疑問
「アテナはアンドロイドなのにどうしてこんなにガキっぽい訳?普通アンドロイドっていったら
 製造されたときに一緒に装着されるAIが人格を形成するじゃない。それがこんな子供でいい訳・・・?」
確かに一理ある内容だ。アンドロイドは制御回路の差し替えができないよう
厳重なロックが頭部パーツにはかかっているのだ。これを解除できるのはアンドロイドの製造に関係している人間だけである
「あ、気づきました?私もよく知らないんですけど・・・じりつしんかがたしこうかいろ・・・とかいうのが
 搭載されているとかいないとか・・・それで、その回路のおかげで私は普通のヒューマンやニューマンのように
 子供の時代があって、大人の時代があって・・・みたいになってるそうなんです」
「それで、あたいと同い年だから二人で一緒にハンターズになったんだよ
 あーそれにしてもお腹すいたなぁ・・・」
「ロロちゃん絶対そういうだろうと思ってお母さんがお弁当作ってきてくれたよ。あ、お二人も一緒にどうぞ」
「い、いやいやアタシたちは気にしなくていいわよ?」
「うんうん、大丈夫大丈夫」
「いえいえ、お二人の分も作ってきてくれてるみたいですし。それにお昼時ですから丁度いいのでは?」
時間は確かに昼時。太陽が真上に昇っている
「うーん・・・それじゃあお言葉に甘えましょ、先輩?」

「結構美味しいわね。アタシも料理くらいできるようにならないと・・・」
「そうですよー。砂糖と塩間違えるなんてありきたりすぎて笑えましたよ」
クスクス笑うメイ
「む、むかつく・・・でもなぁ・・・料理できないと女としてダメよね・・・」
「うんうん。料理上手ければ真田さんの評価もアップですよ?」
ニヤニヤしながらメイがぼそりと言う。ブラックはその言葉にハッとする
「だ、だからアタシはあいつが好きとかそう言うのじゃないって・・・!」
「あれれー?誰もそんなこと言ってないんですけどねぇ・・・ただ真田さんの評価が上がるとしか♪」
メイの誘導作戦にまんまと引っかかったブラックは顔を真っ赤に赤らめて
「くぅ・・・違うものは違う!もう・・・いたっ!」
持っていたパンを食べ始めた瞬間ブラックが口を押さえる
「あー・・・また唇切ったんですか?」
「うん・・・ティッシュくれない?」
口を押さえたままティッシュをもらい口にあてる
「キバがあると不便なのよね、もう・・・」
ブラックの口をよく見ると確かにほかの人と比べて犬歯が少し長いのがわかる。唇から血がにじむ
「お姉ちゃん大丈夫なの?」
アカロロが心配そうにメイに言う
「大丈夫だよ。いつも不用意にものを食べようとするとああやって唇切っちゃうの」
「痛そう・・・」
そーっとブラックの方を見る
「あれに噛まれるとすごく痛いんだよ・・・」
「え、噛まれたことあるの?」
メイとアカロロのヒソヒソ話
「時々だけどね。首のところとか、肩とか、腕とか・・・突然ガブッと」
「こ、怖い・・・」
本当のことを言っただけなのだがアカロロを怯えさせてしまったようだ
「ま、まあ噛み付かれるのは私だけだし、他の人には何もしないよ」
その言葉を聞いてちょっとだけほっとするアカロロであった

しばしの休息の後、まばらにしか現れないエネミーたちをいとも簡単に倒して進んでいく
「楽勝楽勝♪」
「張り合いないわね・・・」
「こんなに楽なんですか?ハンターズって・・・」
「なんか嫌な予感するんだけどなぁ・・・」
メイは一抹の不安を抱えているようだが他の三人は案外楽観的だ
日はずいぶん傾いてきていて、そろそろ日没だ
「そろそろまずいかもね・・・戻るわよ」
突然ブラックがセントラルドームへ引き返そうとする
「え、どうしてですか?」
「アカロロとアテナは知らないかもしれないけど・・・メイ、アンタも知らないの?死にたくなかったら早いとこ帰るわよ!」
かなり焦っている様子だ
「わ、わかりました。帰りましょう」
と、目の前から突然エネミーが飛び出してくる
「え・・・何これ?」
目の前に現れたのは今まで出てきていたようなエネミーとは似ても似つかない
凶暴そうで、巨大な亀のようなエネミー
「もう出てくる時間だったか・・・そいつらは夜行性エネミーよ
 今まで出てきたような連中とはまったく別物。攻撃力、防御力、素早さ、体力全てにおいて究極とも呼べる強さ」
敵が大きくうなり声を上げる
「そ、そんなのいるなら先に言ってくださいよ!」
メイが夜行性エネミー、バートルにガルドミラを撃ち込みながら叫ぶ
「アンタが知ってるものだと思ったから言わなかったんじゃない!」
ブラックがグライドディヴァインからダブルセイバーに持ち替える
「アタシもそろそろ本気を出さないといけないみたいね・・・アカロロ、回復任せたわよ
 メイとアテナは危なくなったらすぐ退くこと」
それだけ言うとバートルの中に飛び込んでいく

9話完

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