PAST OF PHANTASY11話

「それは私がまだ幼かったころのことです。私の姉はある裏の仕事をしていたんです
 それが何かわかりますか?」
ブラックに問いかける
「うーん・・・裏の仕事ねぇ・・・なにかしら?」
「簡単に言うと、泥棒のサポートをしてたんです。ある有名な大泥棒のね
 それで・・・その日も仕事だったんです。そう、あの日も・・・」

「ただいま」
がちゃりとドアが開き、一人の女性が入ってくる
「あ、お姉ちゃん!お帰りなさい」
10歳前後の少女が帰りを待っていたようだ
「メイ・・・こんな遅くまで何してたの?よい子は寝る時間だぞぉ」
「えぇー・・・ジェニスお姉ちゃんが帰ってくるの待ってたんだもん」
ジェニスと呼ばれたその女性は20歳くらいだろうか
「仕方ないなぁ・・・」
すると突然インターホンの音が鳴る
「あら?誰かしらこんな時間に・・・」
時間的にはもう深夜
「ジェニス、今日の分け前を渡しにきたんだが・・・入れてもらえるか?」
男の声がする。ジェニスはその男を知っているのだろう、ドアを開けて男を入れた
「今日もお前のおかげで大成功だったぜ・・・ん、その子供は?」
「あぁ、私の妹よ。知らなかったっけ?」
「聞いてないぞ。しかし可愛い妹だな・・・名前はなんていうだい?」
男がメイに話しかける
「えと・・・メイです」
「そうかそうか、メイはお姉さんのこと好きか?」
「うん、大好き!」
「わっはっは、そりゃよかったなぁジェニス!」
男が話し終えた直後、ドアを破り開ける音がして数人の男が押し入ってくる
ジェニス=クライシスとアーロン=シュミッド。ここにいる事はわかっている、大人しく出てくるんだ
ロングコートを着た男が家の中に向かって話す
「アーロン、相手の数は?」
こういうこともあろうかと隠し部屋を用意してあったのだ。その中で相手の数を確認する
「自動小銃を装備した連中が二人、サブマシンガン持ちが二人、んでリーダーらしきやつはマグナムだ」
「計5人ね・・・アーロンは自動小銃をお願い。私はサブマシンガンのほうをやったらリーダーを落とす」
二人は武器を取り出し
「メイはここで待ってて。絶対に声を出したり、出てきたりしたらダメよ」
こくんとうなずくメイを見て二人は別々の出口から出て行く
「ジェニス=クライシス!アーロン=シュミッド!大人しく出てくるんだ!」
「全く・・・何処の誰かは知らんが人の家に入る時のマナーくらい教わらなかったのか?」
ショットガンを2丁両手に持ったアーロンが飛び出してリーダー格の男の左脇にいた二人に撃つ。相手はなすすべもなく崩れ落ちる
その光景を見て一瞬あっけにとられたリーダーの右脇にいた二人に
今度は右手にヤスミノコフ、左手にまた違った拳銃を持ったジェニスが正確に敵の急所を撃つ
「さあ、2対1だぜ?どうする?」
「・・・ふん、本当にそう思うのか?」
「そう思うって、そうしか見えないだろう!」
アーロンがショットガンの引き金を引く。弾は男に当たっているはずなのだがコートに無数の穴が開くだけ
「そんななまくら銃でこの私が倒せるとでも思ったか・・・?」
その男はマグナムをアーロンに向ける
「アーロン逃げて!」
ジェニスの声の届く寸前にマグナムの発砲音が鳴り響く。頭に被弾したアーロンはその場に倒れる
「く、くそ・・・!」
ジェニスが銃を男に向ける。男はマグナムの反動か動けないように見える
「おっと、手は二つあるんだぜ・・・?」
コートの中からもう片方の腕がすっと出てくる。その手には同じ型のマグナム
「しまった・・・ぐっ!?」
二度目の銃声が部屋の中を響き渡り、ジェニスが胸を押さえて崩れ落ちる
「ふん、私たち殺し屋組織、DGA社がこの二人を殺したとなればそれこそ一躍有名になる・・・
 そして私の地位も上がるのだ・・・フフフフフ・・・フハハハハハ!」
男は高笑いをしながら去っていった
「お姉ちゃん!」
メイがジェニスのもとに走り寄る。まだ息はある
「お姉ちゃん!どこ怪我したの!?大丈夫!?」
「メイ・・・ゴメン、私・・・も・・・引き際がわからなかったんだ・・・もっ・・・と早く・・・に・・・手を引いてれば・・・
 メイは・・・絶対ダメ・・・だからね・・・泥棒の・・・サポートなんて・・・仕事・・・は・・・
 それ・・・が・・・お姉ちゃんの・・・最後・・・の・・・お願い・・・だか・・・ら・・・」
ジェニスはそれきり動かなくなってしまった。

「そのとき姉が持っていた銃なんです・・・これは・・・」
確かによく見ると銃の持ち手のところに英語の筆記体で「JENIS」と刻んである
「手先が器用だったから、銃にちょっと手を加えてどんな銃弾でも撃てるようにしたんだそうです」
「・・・でもさ、復讐とか考えなかったの?姉を殺されたんでしょ?その男に」
「そうですけど、復讐したら結局はあの男とやってることは変わらないですから」
笑ってみせるメイだったが笑顔があまりにも痛々しい
「それに・・・姉の最後の願いを守りたかったんです。泥棒のサポートという姉の仕事
 結局中身は人殺しですから。盗みを実行する上で邪魔になる存在を消すのが姉の仕事だったんです」
ボーっと持っている銃を見つめながらメイが話を続ける
「それは復讐だって考えました・・・自分の地位のために人を殺すなんて許されるものじゃないですよね・・・
 でも例え私が復讐を果たしたとして今度は私が人殺しを犯してしまう。そうなったら姉はどんなに悲しむだろう・・・そう思ったんです
 悪循環は誰かが止めなくちゃいけないんです・・・大きな犠牲を払ってでも」
ブラックは何も言えない。そのまましばらく沈黙が続いた後
「・・・メイ?」
「ふぇっ?」
うつむいていたメイが体を起こした瞬間ブラックがその体を抱きしめる
「アンタってやつはホントに心配ばかりかけるんだから・・・」
「・・・なんか先輩って、姉によく似てます。時々こうしていきなり抱きしめられました
 この温もりに包まれてるような感覚・・・何年ぶりかな・・・」
ブラックは何も言わずその小さな体を抱きしめ続けた
「お姉ちゃん・・・うええ・・・」
次第にメイは姉のことを思い出したのだろうか、泣き出してしまった
「やっぱり寂しかったんじゃない・・・いいわ、今日は特別。好きなだけ泣いてスッキリしなさい」
その夜、メイの泣き声はブラックの意識がなくなった後もなお続いた

「ん・・・朝・・・?」
気がつくと朝日が目に飛び込んだ
「あ・・・あの後寝ちゃったのかアタシ・・・・」
自分の体には布団がかぶせてある
「こんなもの持ってきた覚えないわよね・・・」
彼女に布団をかぶせたのも、彼女の体をソファの上に運んだのも
全部目の前ですーすーと寝息を立てている
「メイ・・・か・・・」
あれから随分長い間泣いてたのだろう、目の周りが真っ赤になっている
「あんなにトロそうでボケてると思ったら、そのちっちゃい体にそんなに苦しみを押し込めて・・・」
「うにゃ・・・せん・・・ぱい・・・」
メイの寝言。
「全く・・・アタシの夢でも見てるのかしら・・・」
そうしてボーっとメイを見つめていると、寝息が止み、目が開いた
「う・・・うーん・・・あ、おはようございます」
「おはよ。一体いつまで泣いてたのよ?その顔を見る限り随分長いこと泣いてたみたいだけど」
「あはは・・・先輩が寝ちゃったの気づかないままずっと泣いてたら4時間くらい・・・」
その言葉を聞いて大きくため息をするブラック
「よくそんな長いこと泣いてられるわよ・・・それはそれで特技かもしれないわね」
ニヤニヤ笑うブラック
「むー・・・泣いてていいって言ったの先輩ですよ?それなのに先に寝ちゃうなんて・・・」
頬を膨らませて不満げな表情
「いいじゃないの、スッキリしたでしょ?」
「それはそうですけど・・・あ、ああっ!?」
何かを思い出したような声を上げる
「今日洞窟エリア最深部の調査・・・!」
「それがどうかしたの?」
「日付間違えて昨日銃全部メンテナンスに出しちゃったんですよぉ・・・」
「な、何バカやってるのよ!他の銃はないの?」
「このヤスミノコフ以外一つも持ってないです・・・あーどうしよう・・・」
メイが色々と考えをめぐらせて
「・・・あ!姉の遺品でいくつか銃を持ってきてました!」
ブラックも中身を見たことの無い厳重な鍵のかかっている大きな箱をメイが開ける
中には大小さまざまの銃が所狭しと並んでいる
「こんなに持ってきてたの・・・?」
「これでもごく一部しか持ってきてませんよ。家にはこの10倍は数がありますね」
言葉を失うブラック
「これなら何とかなりそうです・・・」
「そ、そう?それはよかったわね・・・」
少々メイを甘く見ていたようだった

11話完

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