PAST OF PHANTASY14話

「一体何よ八神のやつ・・・こんな時間にいきなりメールで呼び出すなんて」
少々愚痴交じりに夜のセントラルドームを歩く草薙
「きたか・・・悪いな、こんな時間に」
「悪いじゃ無いよ!大体こんな時間に出歩いたら危ないんだよ?」
「でも、エネミーには出会わなかったろ?」
「そ、そう言われればそうだけど・・・」
「俺が道中のエネミーは全て倒しておいた。勝負のためにな」
八神がチェインソードを構える
「へぇ・・・八神にしては随分用意がいいじゃん・・・どういう風の吹きまわし?」
ラヴィス=カノンを持つ
「さぁな・・・」
八神が走り出す
草薙が八神の一太刀を間一髪でかわし、首付近に水平斬り
それをまた紙一重でかわし後ろにステップして間を取る
「へぇ・・・やるじゃん」
「お前こそ。少しは成長したんじゃないか?」
また八神が今度は上空に大きく飛び上がって体の落ちる勢いを利用した垂直斬り
「甘い・・・!」
草薙が垂直斬りをよけて構えなおそうとした八神のソードを叩き落す
「私の勝ち」
倒れた八神に剣を向け、ニコッと笑う
いつもならここで八神はさっさとソードを片付けて帰っていくのだが、今日は様子が少し違う
「な、何・・・そんなジロジロ見て・・・」
八神が草薙をまじまじと見つめている。いつもと違う様子に草薙が気を抜いた瞬間
草薙の持っている剣をはじき落とし、両手をつかんで壁に押し付ける
「え・・・ちょ、ちょっと・・・いきなり何・・・」
突然のことに戸惑いを隠せない草薙。八神は何も言わずに唇を近づけて
「んっ!?」
数秒間それが続き、ゆっくりと顔を離し、つかんでいた手を離す
八神はそのまま何も言わずいつもの様にソードを片付け、帰っていった
一方の草薙は突然のことに戸惑いと驚きが交差して入り混じりわけがわからなくなっていた
「な、なんで・・・」
その場にへたりと座り込み呆然とする
「草薙ー!どこにいるのー!?」
遠くのほうからゼロの声がする、しかしまだ気持ちの整理がつかないせいかその声が聞こえない
「くさなぎー!全く・・・こんな時間に・・・」
声が少しずつ大きくなってくる。しかしまだ草薙は気づかない。ただ呆然と座っているだけ
すると草薙の近くにあった扉が開いて、ゼロが入ってきた
「くさなぎー・・・って、草薙!」
ゼロの目には呆然と座り込んでいる草薙が何者かに襲われて重傷を負っているように見えたのだろう
血相を変えて彼女に駆け寄った
「草薙どうしたの!?しっかりして!」
「ぜ、ぜろ・・・さん・・・?」
「どうしたの?何があったの?」
「い、いえ・・・何でも・・・ないです・・・」
「じゃあどうしてこんなところで座ってるの?こんな夜に」
このままゼロに何も無いと言い通すのは無理だと悟った草薙は
「ど、どうしてあいつが・・・あんなこと・・・」
居住区の自室に戻るまでの道のりで今まであったことを全て話した

「八神君がね・・・そう・・・」
「私・・・この後どんな顔してあいつに会ったらいいのか・・・」
「うーん・・・いっそのこと向こうが来るまで待ったらどうかしら?来た時に多分話はしてくれると思うし・・・」
そう言うとゼロが机に何かの入った器を置く
「これ今日の晩御飯。ごめん、ちょっと用事あるからまた明日ゆっくり話しましょ」
ゼロが部屋を出て行く
「待つなんて出来ないよ・・・ルールだもん・・・」
草薙と八神の間には暗黙の了解としてルールが二つある
一つはお互い致命傷になる傷を与えないこと
そしてもう一つは勝ったほうが次の勝負を申し込むこと
勝ち逃げさせないためのルールとして二人の間で交わされた約束
「でも・・・あんな事された後にこっちから勝負なんてできない・・・」
頭を抱え、悩む草薙
「(一体何がしたかったの・・・どうしてあんなところで・・・わかんないよ・・・)」
ふと机を見ると、さっきゼロがおいていったグラタンがある
「ゼロさん・・・私、どうにかなっちゃいそうだよ・・・」
グラタンを食べ始めた草薙の目にはうっすらと涙が浮かび上がっていた

「えいっ!」
紫色の剣が独特のスイング音を立てる
斬られたラッピーがその場に倒れた
「どうやったらこいつ倒せるだろう・・・」
草薙はあの後1週間ほど考え込んだが、結局良い考えは浮かばなかった
「気にしても仕方ない・・・全部あいつが悪いんだもん」
草薙はそう思うことにしたらしい。確かに八神が一方的にしたことだから、そうかもしれないのだが
そんなことを考えていると、ラッピーがむくりと起き上がった
「そこだぁ!」
しかし斬ったところにはもう何も無い。ラッピーはすでに2〜3メートル前まで行ってしまっていた
「はぁーあ・・・せめて一撃くらい・・・」
うなだれて近くの倒木に座る
「(どうしよう・・・もう1週間・・・そろそろ勝負に行かないといけないのに)」
二人は大体1週間ほどのペースで勝負を繰り返していた
「(結局なにもいいアイデアなんて思い浮かばなかったし・・・どうすればいいの・・・)」
草薙が悩んでいると、近くでうなり声が聞こえてきた
不思議に思い声のするほうを見ると
「ウゥーウ・・・」
「・・・へ?」
目の前にいるのは紛れも無い、ヒルデベアだった
「え、えっと・・・団体さんですか・・・?」
草薙の視界で確認できるだけでも3匹はいる
「こんなにたくさん戦ったこと無いって・・・」

「きゃあっ!」
ヒルデベアの攻撃で吹き飛ばされ、壁に体をたたきつける
全部で5率いたヒルデベアを3匹まで倒したのだが、体へのダメージ、体力はすでに限界だった
「(始めのほうはうまく衝撃波を使って攻撃できたけど・・・もうダメだよ・・・)」
ぐったりと叩きつけられた壁にもたれかかる草薙の体をヒルデベアがつかみ上げる
「(これからどうなるんだろう・・・このまま食べられちゃうのかな・・・)」
もう抵抗する力も草薙には残っていなかった
「(ここで死んじゃうんだ・・・私・・・)」
目を閉じて、何をされてもいいよう覚悟を決めた直後、突然自分の体を締め付けていた力が弱まり地面に落ちる
何かと思ってヒルデベアのほうを見ると腹部を一刀両断されている
そしてそれが倒れた奥に見えた一人の人影。それは紛れも無く
「や、八神・・・」
「お前らしくないな、諦めちまうなんて」
「う、うるさい・・・別に諦めたわけじゃないもん・・・」
そういって立ち上がろうとするが、体に全く力が入らない
それを見た八神は呆れた顔をして彼女の体を抱き上げる
「健気なところは良いが、無理すんなよ」
「や・・・大丈夫だって、おろしてよ!」
抱き上げられた体勢が、俗にいうお姫さま抱っこのような状態だったので少々恥ずかしかったのだろう
「なんだよ、人がせっかく助けてやったのに」
「う・・・それは・・・」
それきり何も言えなくなった

八神はさっき草薙が座っていた倒木に彼女を座らせて、自分もその隣に座る
「ほれ、これ飲んどけ」
渡されたのはトリメイト
「あ、ありがと・・・」
もらったトリメイトをその場で飲む。強力な体力回復剤なのですぐに体が軽くなっていく
「しかし・・・お前がこんなところにいるなんて珍しいな
 普段はゼロさんと一緒にいるだろ?今日あの人に会ったら依頼で洞窟行くっていってたぞ?」
「それは・・・八神がこの前あんなことするから・・・それ以降私も何が何だかわかんなくなっちゃってて
 ゼロさんそれを気遣って私をあまり連れまわさないようにしてるの
 どれもこれも全部八神のせいだよ・・・ゼロさんが随分心配そうに私のこと見てるのも
 私がこんなに悩んで次の勝負の時どんな顔していけばいいか考えてるのも・・・全部キミのせいなんだよ!?」
草薙が涙目で八神に訴えるように言う
「それなのにキミは私が襲われてるときに計ったかのように偶然現れて・・・
 私はどうしたらいいの!?キミは私のことどう思ってるの!?」
一瞬言葉を失い、考えるような表情を見せた八神だが
「俺はさ、今まではずっとただのひどい腐れ縁だとしか思ってなかった
 そりゃそうだろ、もう何百、何千と戦っているのに勝敗は全くの五分なんだぜ?
 腐れ縁もいいとこだって、最近まではそう思ってた」
「最近まではって・・・どういうこと?今はどうなの?」
「今か?今は・・・なんでだろうな、何か運命みたいなものを感じてる
 この世に神と言う存在があるなら、その神に俺とお前は結び付けられちまったんじゃないか・・・そう思うようになった
 笑ってくれたっていっこうに構わん。ただ、お前に対する思いや、考え方は確実に変わった
 正直なところ、最近はお前と戦ってるときずっと迷ってたんだ
 俺がこの気持ちをお前に打ち明けたとき、お前はどんな反応をするか・・・ってな」
まだよくわかっていないような表情をした草薙の両肩をがっしりとつかんで
「ようやく決心がついた。お前にこのことを言おうって・・・」
「ど、どういう・・・こと?」
草薙は八神の言いたいことがなんとなくわかってきたような感じがしてきた
「草薙。俺、お前が・・・」
そして八神が次の言葉を言おうと口を開いた瞬間
「おーい!八神何処だー」
二人がその声を聞いた瞬間驚いて八神がつかんでいた手を離し声のほうを見る
声のした方向の扉が開き、出てきたのは
「真田か・・・驚かすなよ」
「驚いたのはこっちだよ。突然どこか行っちまうんだから」
「あぁ、悪い悪い」
「おや、草薙もいたのか。また勝負してたってクチか。今日はどっちが勝ったんだ?」
「もちろん、俺に決まってるだろ」
「え?ちょ、ちょっと勝負なんてしてな・・・」
草薙の言葉を制すように八神が話を続ける
「次も勝ってやるからな。待ってろよ!」
そういい残して真田と八神は去っていった
ふと草薙が八神の座っていたところを見ると、なにやら手紙のようなものが置いてあった
「今の時代に紙の手紙・・・」
それを読んだ草薙は、なーんだとばかりに空を見て笑った
八神は知っていたのだ。草薙が次の勝負をどうやって持ちかけようかと悩んでいたことを
だから今回は八神の勝ちにして、次の勝負を彼のほうからもちかけるということが書かれていたのだった
「そういうことなら・・・許してあげようかな・・・グスッ・・・」
顔は笑っているが、何故だか涙が止まらなかった

数日後

「せいっ!」
「むっ!?」
紫色の剣が男の首元でぴたりと止まる
「あーぁ、負けちまったい」
そう言って八神がソードを片付け帰ろうとする
「待って、八神」
草薙が呼び止め、近づいていく
「な、なんだよ・・・嫌味でも言いにきたのか?」
「この前は・・・ありがとね」
そっと八神の頬に自分の顔を近づけて・・・
「この前のお返し。じゃ、次も勝ってやるからね!」
帰っていく草薙を見て
「あいつ・・・女らしくなってきたな・・・」
八神もその場から去っていった

14話完

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