PAST OF PHANTASY15話

ブラックたちが謎のレイキャシールに襲われてから2週間が経った
「あーぁ、いくら自警団本部からの命令っていっても暇で仕方ないわ・・・」
ソファの上で大きく伸びをしながらブラックが愚痴交じりにつぶやく
二人はあの事件以降謎のレイキャシールの詳しい情報が判明するまでは
外出することを禁止されていた。また狙われないようにする為だ
「情報がつかめ次第本部のほうから連絡があるそうですし・・・ここは大人しく待ちましょうよ」
「そんなこと言ってもさぁ・・・2週間もある意味軟禁状態なのよ?はぁー、早く外の空気が吸いたいなぁ・・・」

ピピピ・・・

屋内設置型の通信端末が着信を知らせる
「誰でしょう・・・」
メイが通信を開く。モニタに映し出されたのはカーンの姿
「俺だ。あのレイキャシールの消息がつかめた
 時間が無い、今すぐ俺の指定するポイントに急いで向かってくれ。座標を転送する」

表示された座標点は、今までそこには何も無かったはずの地点
「ここ・・・何処ですか?」
「俺たちもつい最近発見したんだ。洞窟エリアの最深部よりさらに奥
 そんなところに機械施設がそろっているんだ。中では暴走したロボットエネミーが襲い掛かってくる
 一体何が起きているのか・・・。とにかく今すぐにきてくれ、頼んだぞ」

「やった!ようやく外に出られるのよね!」
ブラックが待ってましたとばかりに荷物をまとめ始める
「でも残念でした。行くところは地下施設ですよ」
「それでもここの空気よりはきっとましよ!さぁ、カーンも何か焦ってるみたいだし、急ぐわよ!」
「あーっ!だから先輩は早いですって!」

「来たなお前たち」
「来たのはいいけど・・・何よここ?こんな地中深くによくもまぁこんな大きな施設作ったわね・・・」
「なにやらここのロボットエネミーたちは統率がとれていますね・・・まるで何か別の大きなものに操られてるみたい・・・」
メイの言葉を聞いてカーンが感心したように
「ほぉ・・・察しがいいな。さすがは大泥棒の妹だな」
「え!?な、なんでそれを!」
カーンの放った一言でメイがびっくりする
「クライシスって苗字でピンときたんだよ。確かにお前の姉さんは自分に妹がいることをひた隠しにしてた
 しかし、俺は昔に一度だけお前の姉さんと組んだことがあったんだよ。その時に話してくれた」
「そうだったんですか・・・」
「お前にだけは絶対人殺しなんて仕事はやらせないって、ずっと言ってたな・・・
 おっと、そんな立ち話をしている間にようやく最後の一人が来たようだな」
何かと思って二人が振り向くと、フォニュームが一人走ってきた
「あれ、君たちあのときの!どうしてこんなところに?」
「あ、アンタやっぱりあのときのアイツね」
服の色や声質、何処をどう見てもブラックたちがあのレイキャシールに狙われる元となった
もめごと起こしの天才、楊七龍だ
「でも・・・カーンさん。私たち3人を呼んで何をするんですか・・・?」
「奴はお前ら三人を狙っているらしくてな・・・三人みんないたほうが奴らも現れやすいだろ?」
3人は納得したようなしてないような表情を浮かべる
「まぁいい、ここには奴をおびき寄せるためにあえて自警団の連中を何人か入れている
 といっても全員精鋭揃いだからやられるようなことは無いはずだ
 必ずその中にあのレイキャシールが潜入しているはずだ・・・お前らは何度か会ってるから発見しやすいだろ?
 そういうのもお前たち3人を呼んだ理由の一つだ」
カーンがゆっくりと歩き出した

「奴の名は綾香=シス=ハムサ。自警団所属なんだが
 本来の所属を隠してここに来ている。それは他でもない、10カ国連盟親衛隊の精鋭部隊の一人だ
 奴は潜伏・暗殺が主な仕事らしく、そういったことには秀でているそうだ」
「・・・つまり俺たちは暗殺者に狙われているのか?」
「そういうことだ。まぁ、本来は楊一人が狙いだったんだろうが
 一度目の暗殺実行時にお前たち二人が邪魔に入った・・・それ以降お前たち二人もターゲットリストの仲間入りだ
 奴らのやりたいことはみえみえだ・・・楊家の党首をつぶして兄弟姉妹をバラバラにして権力集中を抑える
 そして残された莫大な遺産は長男に渡されるのが親父さんの遺書・・・だったな?」
楊に話をふる
「あぁ・・・そうだけど。ということはつまり兄さんをもう抱きこんでるってことなのかな?」
「恐らくそうだろうな。そしてその遺産は抱きこんだ長男からごっそりいただく・・・そんな魂胆だろうよ」
「確かに父さんの遺産は総額にしたら国家予算一年分くらいは軽く超える額になるはず・・・
 もしそれが本当なら、その資金で10カ国連盟は何をしようとしているんだろう?」
「さぁな・・・とにかくそんな莫大な資産をやつらにそう易々と渡しちまうようなら
 軍の連中はますます力をつける・・・そして権力闘争から大きな戦争が起こる・・・
 あの馬鹿どもは本星を潰した原因だった戦争を、ここ惑星ラグオルでもおっぱじめるつもりかもしれん」
「そんな・・・俺たちは新たな戦地を開拓しに来たわけじゃない・・・」
「それくらいわかっている。だから止めるんじゃないか
 本来ならお前たちの安全も考慮して連れて行きたくはなかったんだが・・・そうも言ってられないのが事実だ」
4人の前にロボットエネミーが数体現れる
「部屋の周りをよく見るんだ!こいつらはこの部屋のどこかにあるコントロール装置を破壊しないと倒せないぞ!」
「それって、これのことですか?」
メイの隣には黄色い円盤のような形をしたモノが浮いている
「手柄はいただきっ!」
メイの指差したその円盤にブラックがフォイエを放つ
するとさっきまで5〜6体いたエネミーが一度に全部破壊された
「ああっ!?先輩ずるーい!」
「へへーんだ、アンタが遅いのが悪いのよ」
得意げに両手を組むブラックを悔しそうな表情で見つめるメイ
「おいおい・・・遊びじゃないんだぞ・・・」
呆れるカーンには見向きもせず言い合っている
すると突然楊の顔すれすれの所を黄色いフォトン弾がかすめる
「・・・え?」
「むっ、奴か!?」
カーンが振り向くとそこにはレイキャシールではなく、レイマーがいる
黒と白のレンジャー用スーツを身にまとい、フルフェイスヘルメットで顔は見えなくなっている
レイマーは全く一言も話さない。ショット系の武器を持っている
「む・・・そのショット、他では見たことが無いな・・・貴様、何者だ!」
カーンの問いにも全く反応が無い。それどころかまた撃ち始める
「くっ!こいつ・・・言っても聞かないようなら」
カーンはパーツのほぼ全てが赤い色のパルチザンを装備する
「援護しよう」
楊は何も武器を持っていないように見える
「いやまて。狙われているのはお前だ」
「アタシが行くよ。メイはコイツの援護をお願い」
ブラックが楊の前に立ち、ダブルセイバーを右手に持つ
「お前・・・フォースだろう?何故ダブルセイバーなんか持ってるんだ」
「人は見かけによらないのよ?」
「ならばハンターになればよかったじゃないか」
「無理よ。アタシじゃハンター武器持てるほど力ないわ」
二人がレイマーに飛びかかっていく
「メイ・・・だっけ?俺たちはどうする?」
「見てれば良いんじゃないですか?危なくなったら私の後ろに隠れてくださいね
 これでも反射神経だけは自信あるんです。あの弾くらいガードできます」
「お、おい・・・そういうわけにもいきそうにないぞ?」
楊が指差した先をメイが見ると、あのレイキャシールがこちらに向かって走ってきていた
「目的はあなた一人です。私がなるべく前に行きますから楊さんは攻撃できるときに攻撃って感じで」
メイがヤスミノコフを持ってレイキャシールの前に立つ
「あの人が目的なんですよね?」
「そうです。邪魔をしないでください」
長銃をレイキャシールが構える
「残念ですけど、邪魔をしないといけないんです。あの人を倒したいなら、まず私と相手してください」
レイキャシールは無言で銃を放ち始める

「ほらほら、こっちだって!」
ブラックが横に大きくステップして一瞬隙を見せるようなフリをする
勿論レイマーはブラックに向かってショットを撃つが
「甘い甘い!ほらカーン!任せたわよ!」
ステップしたときの力を利用して上に高くジャンプしてフォトン弾をかわす
そしてレイマーの背後からカーンがパルチザンを振り上げる
「これで終わりだ・・・!」
カーンの攻撃はレイマーのヘルメットをわずかにかすり、ヘルメットが吹き飛ぶ
「むっ・・・貴様は!」
レイマーの顔を見たカーンが驚いたような声を上げる
「ほう・・・流石は傭兵、なかなかいい力をしている
 そっちの小娘も随分すばしっこいな。しかし、こんな硬直の長い武器で勝とうなんてさらさら思ってなんかいねえよ・・・」
レイマーがブラックの持っているダブルセイバーとは少し色の違う、白っぽいフォトンのダブルセイバーを持つ
「その武器はやはり・・・貴様、10カ国連盟親衛隊指揮官・・・
 ウォルフガング=ディエチ・・・!」
「よく知ってるな。まあ、自警団の創設者の一人ともあれば何かしら軍に疑問を持っている人間だ・・・
 そんなところの指揮官の名前と顔くらい、覚えてるか」
「貴様ら軍は一体何を考えているんだ。まさかこの星でまたあの戦争を始める気ではないだろうな?」
「ふん、それはどうかな・・・必要とあらばしなくてはいけないものだ
 恐らく楊暗殺の計画や目的も、もう知っているんだろうな・・・
 だがしかし、この作戦が成功すればお前たちハンターズなど簡単に我々の支配下に置ける
 そうなれば今回の騒動が総督府に漏れることも無い。ということでだ、お前たちにはここで消えてもらうしかないな」
「っち・・・おい、逃げる準備をしておけ」
カーンが隣にいるブラックにヒソヒソと話をする
「なに言ってるのよ、こんなところで逃げてどうするわけ?」
半ば呆れた口調でブラックが返す
「自分の身に危険がある。退路は持っておいたほうがいい」
「ふざけないでよ。逃げるなんてバカな事、やったらただじゃおかないからね」
ブラックがディエチに向かって走り出す
「それっ!」
「ふんっ」
二人の剣の刀身が激しくぶつかり合う
「お前のようなニューマンのその長い耳を見ていると、無性に切り落としたくなるんだよ・・・!」
「な、なんだと・・・」
ディエチがブラックを吹き飛ばす
「きゃっ!」
ディエチが倒れたブラックに走りより
「失せろぉ!」
渾身の力で縦斬り
「っく!」
かろうじてそれをダブルセイバーの片方で受け止める
「俺はニューマンが大嫌いなんだ・・・ヒューマンの上位種だと?ふざけるな!」
よりいっそうの力でぶつかり合っているダブルセイバーを押し付ける
「所詮はモンスターとの混血だろうが・・・その証拠に、お前たちニューマンのセクションIDは
 首輪をモチーフにして作られたもの・・・お前たちニューマンは我々ヒューマンに使役するために作られたんだよ!」
ブラックも必死にディエチの剣を止めているが、体力がもう続かなくなってきていた
「そんなニューマンが市民権だと?お前たちヒューマンの家畜にそんなもの必要ないだろうが!」
「ふ、ふん・・・随分な言いようね・・・アタシだってなりたいと思ってこんな体になったわけじゃないわ
 それこそ、そんな上位種だの家畜だの作ろうとしたアンタたちヒューマンのおかげでこんな体になっちゃったのよ
 アタシだって・・・アタシだってニューマンなんかに生まれたくなんてなかったわよ!」
不意にブラックが受け止めていた力を抜く。ディエチは勢いあまって前につんのめるような体勢になる
力を抜いたブラックはすばやい動きで立ち上がり
「アンタみたいな奴に使役するための道具じゃないわアタシらは!」
怒りを全てぶつけるかのような勢いでフォイエを放つ
「ぐおお・・・!」
大きくよろけたディエチ
「カーン!とどめはアンタの仕事よ!」
大きくパルチザンを振り上げる
「ふん、力があるのは認める・・・だが」
カーンがパルチザンを振り下ろした先にはすでにディエチはいない。後ろに少しだけステップしてかわしていた
「すこし力に依存しているんじゃないか?」
そういい残すと、テレパイプを起動し消えていってしまった
「くそっ、やはり逃げ足だけは速い・・・」
そう愚痴をこぼすカーンにブラックが近づく
「アンタさ、ハンターズなめてるでしょ?確かに退く勇気も必要なのはわかる
 だけど、相手を見ただけでしっぽ巻いて逃げようとするのは退く勇気じゃない、敵から逃げてるだけ
 アンタがそんな弱い奴だとは思わなかったわ」
そう吐き捨てるようにして話して、歩き出そうとするブラックの肩をつかむ
「俺は・・・確かに弱いと思われるかもしれない。しかしだ、これにはわけがある
 それを聞かずに言いたいことだけ言って逃げちまうのか?」
「・・・なによ?言ってみなさいよ」
「わかった。それは本星で起きたことだ・・・」

「っとと!」
レイキャシールの銃弾をすれすれでよける
「攻撃しないんですか?」
メイはまだ一発も銃を撃っていない
「だって、攻撃するだけの間をくれないじゃないですか」
メイの目はいつものちょっとボケた感じの目ではない。かといってヒョウやライオンのような恐ろしい目つきでもない
言うなれば、獲物を狙う猫の目に似ている。一点に集中し、攻撃できるチャンスをひたすら待っている
それはまるで姉が仕事をしているとき、標的を狙っている時のようだ
「攻撃させないのが攻撃の基本です」
そういって撃ち続ける
「(どこか・・・どこかに必ず隙ができる・・・お姉ちゃんに教わったとおりにやれば必ず・・・!)」
そしてレイキャシールが銃のフォトン残量を確認しようと目を逸らしたその時
ヤスミノコフが火を噴き、レイキャシールの肩パーツの部分を粉々に吹き飛ばした
「くあっ!?」
「ふぅー・・・やっぱり反動がきつい・・・そうそう、この銃普通のヤスミノコフだと思ってましたね?甘い甘い・・・」
撃たれた右肩はだらりと垂れ下がり、左手で肩を押さえる
「・・・と、とどめは刺さないんですか?」
「あ!弾これしかない・・・」
その瞬間目が元のボケた感じに戻った
レイキャシールはほっとしたようにゆっくりとテレパイプを起動させていると、メイの後ろから人影が現れる
「おっと・・・当初のターゲットは何処へ行ったかって気にならない?」
レイキャシールがその声を聞いてメイのほうを向くと、突然自分の体がまばゆく光り輝く
古代から伝わる強力なテクニック、グランツ
まばゆい光が爆発に変わり、その衝撃でレイキャシールが倒れる
「ダメー・・・ジ・・・130%・・・安全・・・確保の・・・た・・・・め電源・・・シャッ・・・トダウ・・・ン・・・」
そしてレイキャシールが動かなくなった
「こういうこともあろうかとグランツ撃つ準備しておいてよかったぜ」
「楊さん・・・助かりました」
「気にするなって。それより、あの二人なんか話し込んでるぞ?」
「あれ・・・さっきまで戦ってませんでしたか?レイマーの方と」
「今さっき終わったみたいだ。行ってみようぜ」

15話完

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