PAST OF PHANTASY16話

あれはそう・・・俺が傭兵業を始めて間もない頃のことだった
その時俺には相棒が一人いた・・・そいつはフォマール、名前はナツキ
こいつとは俺の記憶が始まった直後から一緒にいた
何故かナツキは俺のことを妙に好いていて
俺もそんなナツキを見てアンドロイドに生まれたことを後悔したほどだ・・・
そして、あの事件がおきた

「おいナツキ、今日はどこだ?」
その言葉だけでナツキは俺が何が言いたいのかをわかってくれる
「えっとね・・・カナリス地区で行われてる戦闘の手伝いだよ」
「カナリスか・・・あそこは確か3国同盟軍とレザス連邦の戦闘だったよな?どっち側だ?」
「3国同盟のほうだね・・・今日はちょっと楽かなぁ」
「そうだな・・・しかし、3国同盟が俺たちを集めるのは初めてじゃないか?」
「そういえばそうだね、どうしてだろう?」
ナツキは色々と考えをめぐらせる
「まあ・・・レザスも昔は結構強かったからな・・・今じゃ防戦一方だがな」
「あははっ、そうだよね。でもあの国はそれでも降伏しないのはどうしてかな?
 何か一発逆転の秘密兵器でもあったりして・・・」
「そんなことはないだろ・・・しかし、確かに気になるといえば気になるな
 よし、そろそろ時間だ、行くぞ」
「うん!」

「ほう・・・まぁまぁ普通ってところか」
カーンが傭兵の詰所に入って辺りを見回す。大体100人前後はいるだろうか
「傭兵諸君!1時間後に攻撃を開始する!それまでに十分な準備をしてくれたまえ」
放送が聞こえるとみな準備を始める
「ナツキ、準備は良いのか?」
「大丈夫!いつでもいけるよ」
「そうか、それならいいんだ。精一杯仕事してこようぜ」

今回の戦闘地域はカナリス地区のレザス連邦市街地の2キロほど手前での戦闘
「随分近くまで攻め込んだんだな」
「そうだね・・・市街戦になるのは1週間もかからなさそうだね」
二人がそんな話をしていると指揮官らしき男の声がする
「では第1陣攻撃開始!」
号令とともに巨大な戦車や、戦闘機、歩兵が走り出した
「よし、俺たちも行くぞ」
カーンとナツキも走り出した。カーンは軍支給のソード、ナツキはボーガンを持っている

「それ!ふん、張り合いないな」
カーンは一人で10人近い敵を相手にしても全く動じることなく突き進む
後ろにはナツキがいる。そう考えれば目の前の敵が何人であろうが全く問題なかった
「カーン!監視塔の上に狙撃手がいるみたいだから気をつけて!」
ナツキのボーガンの腕は一級品だ。上手く敵の装甲の薄いところを狙っていく
「こちら前線、監視塔の上に狙撃手が数人いる模様。手のあいている人はそれを狙ってください」
ナツキが全域無線に情報を流す
「せいっ!」
カーンの周りの敵は随分減ってきた
「楽勝だ、こんな奴ら」
「油断しちゃダメだよ!何処に危険が隠されているかわからな・・・うっ!?」
突然ナツキが胸を押さえ倒れる
「ナツキ!くそっ!」
戦闘が終わるまで後ろは向けない。後ろを向くということは死を意味する
「とにかくここにいる連中を倒さないと・・・おのれぇっ!」
渾身の力でソードを振り回す

「よーし、敵軍が撤退した!第1陣お疲れさん!この後は第2陣で敵市街地に襲撃する!繰り返す・・・」
敵軍が撤退していったのを確認すると、カーンはすぐさまナツキの元へ向かった
「ナツキ・・・ナツキ!」
もう彼女の息は無かった。ふと自分の小型PCを見ると1件メールが入っている
宛先はナツキから

 ごめん、上ばかり気にしてたから狙われちゃったみたい・・・
 実はね、カーンは私の死んだ恋人の性格そっくりに作ってもらったの
 怒られるのはわかってる。でも・・・私はその恋人よりも、ずっとずっとカーンのことが好きだったよ
 私から言いたいことは一つ。絶対にこの世界を生き抜いて。ここで力尽きる私の分も
 カーンが私のことをどう思ってくれてるかはわからないけど・・・私は大好きだったよ
 そろそろ息が出来なくなってきたよ・・・悲しいけど、さよなら・・・

カーンはそのメールを見てしばらく動けなかった
ナツキはもう死ぬという極限の苦しみの中でもなお俺にこんな手紙を残していった
「ナツキ・・・お前って奴は・・・」

「これが俺の言い訳だ。俺が唯一本気で愛した女を何もしてやることが出来ずに死なせてしまった・・・
 俺はこの事件があってから裏の世界では恐れられるほどの悪になった
 ナツキの死をどうやっても受け入れられなかったんだ。それが元で賭博に明け暮れ、裏の世界に行っちまった
 それでも守ったことが一つあった。自分の身に危険があったら退くことをな
 ナツキとの約束、この世界を生き抜くため・・・危険なことはしないようになったんだ」
「・・・確かに、生き抜くための手段、方法としてそういうやり方もあるわ
 でもね、アンタはそのナツキって子のことを一つだけ勘違いしてるわ
 それは、相手に立ち向かっていく勇敢さを忘れるなってこと
 その子は危険なことから逃げろっていってるんじゃない。例え危険なことでも
 勇敢に立ち向かっていく姿勢で、この世界を生き抜いていって欲しい・・・そう思ったんじゃないかしら」
「しかし・・・そんなことをして、本当に危なくなることだってある」
「まったく女々しい男ね!立ち向かっていくその姿勢を求めてるのよ!
 誰も特攻して死んでこいなんて言ってないわ!」
ブラックが一喝する
「きっとナツキって子が死んだ恋人よりもアンタのことが好きだったっていうのは
 アンタの後姿に惚れたのよ。どんなにたくさんの敵が来ても全く動じないその姿勢に、後姿にナツキは恋したのよ
 だからアンタは女々しい後姿を見せちゃいけない。アンタは今までずっとその子の願いをまともに理解できてなかったのよ」
「俺は・・・今までナツキのことをわかってやれてなかったのか・・・?」
「本心はナツキ本人に聞かないとわかんないけどね。まぁ、死んだときにあの世で聞いたら良いわ」
「ナツキ・・・すまん、俺はずっとお前のことを勘違いしてたのか・・・
 お前は・・・お前はあの時俺にそんなことを伝えたかったのか
 もう何十年もの間俺はお前を裏切り続けていたのか・・・
 そんな長い間裏切り続けてたら・・・もうお前は俺を許してくれないかもしれんな・・・」
「バカ言うんじゃないわよ、これからでも生きている間、約束を果たしてやりなさいよ
 何十年裏切り続けてきたなら・・・もっと長い間約束を守ってやるのよ
 そして、いつかあの世に行ったらナツキに謝るのよ
 何十年も約束を破ってすまなかった・・・ってね」
「・・・そうだな、お前の言うとおりだ」
「そうですよ、先輩の言うとおりです!そうすればきっとナツキさんも許してくれますよ」
「なっ!お前ら・・・聞いてたのか」
「聞いてたも何も、随分前からここにいたけど?」
カーンはメイと楊の存在に気づかないまま話をしていたようだ
「随分力入ってたしねぇ・・・話に」
ブラックがクスクスと笑いながら言う
「全く・・・からかうなよ・・・」
4人は久しぶりに心の奥から笑った気がした

「さて・・・俺はこのレイキャシールを連れて行く。お前ら3人はこれから自由行動だ
 ここの調査をするもよし、帰るもよし」
「俺は帰る!こんなところに長居は無用だ」
「どうします?先輩」
「うーん、せっかく来たんだし、少し調査してみない?」
「・・・ということなので、私たちは残ります」
「そうか、気をつけるんだぞ」
カーンがテレパイプを起動させてレイキャシールを抱えて消えていった
「じゃ、俺も帰ることにするよ。また何処かで会おうぜ」
楊もテレパイプで地下施設から脱出していった
「じゃあ何処へ行ってみましょうか?」
「そうね・・・といっても全く見当もつかないわ・・・」
「じゃあ、あっちに行ってみようぜ」
突然二人の後ろから聞き覚えのある声がした
「あれ・・・真田さん!」
「ど、どうしてここに・・・?」
「どうしてもなにも、本部からの依頼でここの調査を頼まれたんだよ
 二人とも暇そうだし、一緒に行かない?」
「是非お願いします!」
「ま、まあ・・・メイがいいって言うならいいかな・・・」
「よかった。それじゃ二人ともよろしく」
するとブラックの小型PCにメールが1件入った
宛先はメイ

 よかったですね、真田さんと一緒に調査できて♪

それを見たブラックは顔を真っ赤にしてメイをにらむ
一方のメイは口に手をあててクスクスと笑っている。真田は二人の行動にちょっと疑問を持ったが
「とりあえず、あそこに行ってみようか」

16話完

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