PAST OF PHANTASY18話

「・・・」
「・・・」
二人は脱出用装置の中で一言も言葉を交わせない
あんな形でメイがいなくなってしまったのだから仕方ないだろう
するとブラックの小型PCに一件のメールが入った
「誰、こんなときに・・・メイ!?」
宛名を見てブラックが声を上げる
「メイがメール?どうしたんだ?」
「わからない・・・とりあえず見てみるわ」
ブラックがメールの本文を表示させる

 先輩。私です、メイです
 このメールは、私の生体反応が消滅したとき、つまり私が死んだときに自動的に先輩に送信されるようになってるんです
 だから先輩がこれを読んでいるときにはもう私はこの世界にはいません・・・
 私がこの死をどう受け止めているのか・・・悔いある死だったのか、そうじゃないのか
 それはわかりません。
 前置きが長くなりましたが、私の遺品の中で先輩が使えそうなものが一つあるんです
 私がパイオニア1に持ち込んだあの大きな箱
 あの中には姉の遺品の銃がいくつか入れてあるんですけど、その奥に一つフォース用の装備があるんです
 それ、もしよかったら使ってください。あの箱のパスワードは先輩の誕生日です
 私・・・ずっと先輩のこと心配だったんです。心から笑っている先輩の姿をまだ一度しか見たこと無くて・・・
 もしかしたらこれを書いた後にそういう姿を見れたかもしれませんが、もしそうじゃなかったら
 それが唯一の心残りかもしれません
 先輩・・・どうして笑顔を捨ててしまったんですか?
 昔一瞬だけ見せた笑った顔・・・すごく可愛くて、女の私でもちょっとビクッとしました
 そんな先輩の笑顔がもう一度みたい・・・そう思って今までずっと私なりにがんばってたんです
 どうにかして笑顔が見たい・・・あの可愛らしい表情を見たい・・・
 でも、夢は叶わなかったかもしれません・・・もし叶ったら私はそれで本望です
 初めて会ったあのときの怒った表情と、虐めを受けていた私を助けてくれたときの先輩の笑顔は
 一生心に焼き付いてます。
 長くなってすみません。大好きでした、先輩・・・さようなら。ありがとうございました

メールを読み終えた後しばらく呆然とした後
「メイは・・・あの子はずっとアタシのこと心配してたの・・・?
 なら、どうして言ってくれなかったのよ・・・どうして・・・」
ぼろぼろ涙を流しながらメールを見続ける
真田の前で弱いところは見せたくないとも思ったが、悲しみがそれを上回ってしまった
「遺言メールか・・・お前は、それだけ慕われていたんだな・・・」
ゴトンという音がして、脱出装置が止まった
「地表についたみたいだな・・・大丈夫?立てるかい?」
声は出せないが首を縦にこくんと振る
「よし、それならまず本部へこのことを報告しよう。メイの死を無駄にしないためにもな」

二人は自警団の本部へ地下施設であったことを報告
事情聴取を受けたがブラックはショックでほとんど何も話せず、全て真田が答えていた
そして夜、真田はブラックのことが心配で彼女の部屋へ向かった

インターホンの音がブラックの部屋に鳴り響く
「ブラック、俺だ。入れてもらえるか?」
「あぁ、真田?いいわ、入りなよ」
口調が普段と違うことに疑問を感じつつも部屋に入る
「お邪魔するよ・・・って、お前何してんだ!?」
「はぁ?見てわからない?」
真田が見たのは部屋中に散らかった酒の空き缶とテーブルの上にドンと酒の缶が大量に積んである
そして積まれた缶の向こう側には顔を真っ赤にしたブラックがコップに注いだ酒を飲み続けている
散らばっている缶と、詰まれている缶を合計すると30個は軽く超えてそうだ
「お前・・・これ全部一人で飲んだのか?」
「なによ、他に一緒に飲んでくれる奴がいるわけ?
 アタシは天涯孤独。仲間なんてもうだーれもいやしないわよ」
そういって酒を飲み続ける
「アタシなんかもう生きてたってなーんにも良い事無いわ
 メイだってアタシのこと本当に心配してたかなんて・・・」
そう言った瞬間真田がブラックの頬を平手打ちする
一瞬で酔いが吹き飛んだ彼女は叩かれた頬を押さえ唖然とする
「お前がそこまで弱い奴だったなんて知らなかったよ
 これじゃ・・・メイの死は全くの無駄だったじゃないか!
 俺もお前のことは本当に心の強い奴だと思ってた。だが・・・失望したよ」
一瞬で酔いが覚め、我に返ったブラックは頬を押さえたまま動かない
「・・・アタシにとってあの子はアタシの全てだった
 メイだけは・・・メイだけは例え自分の命を犠牲にしてでも守ってやりたかった
 でも・・・あの子は逆にアタシらを自分の命を投げ出してまで助けようとした
 アタシ・・・あの子に命の借りを2度も作っちゃった・・・
 今度はアタシが返す番なのに・・・あの子は借しを作ったままアタシの前からいなくなった
 そう考えたら生きているのが辛くなって・・・お酒の力を借りて自殺でもしようかと思ってたところだったの」
彼女の目に涙がうっすらと見える
「見てのとおり、アタシはお酒の力を借りないと自分の命も絶てない弱い女よ
 あの子に余計な心配をさせまいと、ずっと気丈に振る舞ってただけ・・・」
「メイはそんなにお前にとって大切なものだったんだな・・・」
「うん・・・すさんだアタシの心を必死になって直そうとしてくれた・・・
 初めてあの子と出会ったのは、ハンターズ養成機関にいたころだったわ」

18話完

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