PAST OF PHANTASY19話
ブラックとメイがはじめてであったのは本星コーラルでのこと
降りしきる雨の中、とある橋の下でだった
「おら!調子乗ってんじゃねえぞこのやろう!」
一人の男性が手足を他の人に固定された一人の女性の顔を殴る
「っく・・・げほっ、げほっ!」
殴られている彼女は全身いたるところが赤く腫れ上がっていたりあざが出来ている
もう彼らに殴る蹴るの暴行を受け始めてかれこれ2時間は経っている
「黒い猫なんて恥ずかしげも無く名乗りやがって・・・バカじゃねえの?」
「うっさいわね・・・アタシより成績低い奴なんかにそんなこと言われる筋合い無いわよ」
「おめーのその態度が鼻持ちならねえんだよ!」
今度は腹に蹴りを加える
一瞬ガクリと全身から力が抜け、顔を下に向ける
「ふん・・・もうおしまいか?」
男性のほうが彼女の顔を持ち上げる
彼女は歯を食いしばり男性のほうをにらみつける
「その反抗的な目もむかついて仕方ないんだよ・・・!」
みぞおち部分に膝蹴りを入れる
「はぐっ!?」
それを受けたほうは遂に力尽きたのか、その場に力なく倒れこむ
「ったく何時間やらせるつもりだよ・・・帰ろうぜ」
男性数人が彼女から離れていった
「っく・・・あいたたた・・・」
あれから30分ほど倒れていた彼女が立ち上がる
「全くいい加減飽きないのかしら・・・こう毎日のように殴ったり蹴ったり・・・」
橋の下にある小さな公園のようなところで彼女は毎日のように
さっきの男たちに暴行を受け続けていた
「大体アイツらも暇よね・・・アタシなんかイジメたところで何も面白くないのに」
近くにあるベンチに座り、目を閉じて大きく一つ息をする
「(まぁ・・・もうすぐライセンス取得試験が始まるし・・・それが終わったらこっちのもんよ)」
「あ、あのぉ・・・」
不意に彼女の後ろから声がした
自分に話しかける人間はほとんどが自分に対する誹謗中傷だったり、中には突然殴ってくる者もいた
例え声の主が女性だとわかっていても、それでも彼女はまたそんな輩だろうと決め込んでいた
それでなくとも今の彼女は随分イライラしていたこともあって
「なによ!?今度は何の用!?」
ものすごい怒った口調で言い放ちながら声のしたほうをにらむ
「えっ!?あ、いや・・・えっと・・・その・・・」
声の主は自分よりもっと背が低くて華奢。自分も背は結構低いほうなのだがそれ以上に低い
随分驚いて怯えたような表情をしている
「用が無いなら帰ってちょうだい」
相手が自分に危害を加えるつもりが無いとわかっているのにイライラした口調で言う
「でも・・・さっきここで男の人たちに殴られてるのを見て・・・」
「ふーん。それで同情でもしに来たわけ?そんな情けを受けるほどアタシは落ちぶれちゃいないわよ」
「べ、別にそんなことでは・・・ただ、大丈夫かなと思って・・・」
内心はすごく嬉しかった。初めて他人に心配された、初めて自分のことを気遣ってくれる人が現れた
しかし、彼女は複雑な気持ちだった
「それはいいけど、アタシなんかに構ってるとアンタもイジメられるわよ?
ここであったことは誰にも言わないから、早くここから離れたほうが良いわ」
自分を構っているとさっきの男連中の虐めの対象になってしまう。そう考えたのだ
「で、でも!私最近ここに引っ越してきて、この道よく通るようになったんですが
この時間帯いつもあなたが殴られてるのを見て・・・我慢できなくて・・・」
「(コイツ・・・ホントにアタシのこと心配してる・・・)」
「それで、せめて話だけでもと思って・・・でも、お邪魔でしたか・・・?」
目にうっすらと涙が浮かんでいるのが見える
「な、泣くんじゃないわよ!アタシが泣かせたみたいじゃない」
「グス・・・す、すみません・・・」
「とりあえずここ座りなよ。話くらいなら・・・してあげても良いわ」
「本当ですか?良かった・・・」
涙目で笑い、彼女の隣に座る
「私・・・ずっと一人暮らしなんです。両親が早くに死んで、親戚の家に預かってもらっていたんですが
ある時親戚の家を飛び出して・・・それ以来ずっとです
それでこっちに引っ越してきて、誰も話す相手がいなくて・・・寂しかった・・・」
うつむいて悲しそうに話す
「それで・・・街の中でふとあなたを見つけたんです。その時にはすでに殴られたり蹴られたりしているところを見ていたので
後姿とか、背とかでわかったんです。その時のあなたは、すごく寂しそうな、悲しい目をしてた
だから、一度だけでも話がしたいって・・・」
「そっか・・・アタシも一人暮らしよ。アタシの場合、両親が死んだとかじゃなくて・・・親に捨てられたんだけどね」
その言葉を聞いて相手が驚いたような表情を見せる
「ホントは言わないことにしてたんだけど・・・アンタは特別。教えてあげる
アタシは数年前に親に捨てられた・・・今は生活保護だけでギリギリ暮らしてるってとこ
バイトも考えたんだけど・・・ニューマンだというだけでどこも採用してくれなくて
だからハンターズになろうって、今は養成機関に行ってるわ
でも、捨てられた親につけられた名前が大嫌いだから本名は名乗ってないの
それがアイツらは気に入らないらしくてね・・・
だから、一流のハンターズになって誰からも文句言われないようになろうと思ってる」
「違う名前ですか・・・何と名乗っているんですか?」
「BLACK CAT・・・そう名乗ってる。黒い猫・・・って、孤独なアタシらしいでしょ?
そういうアンタはなんていうのよ?」
「私ですか?メイです。メイ=クライシスといいます」
「へぇ・・・いい名前じゃない。大切にしなさいよ」
それから二人は色々なことを話した
養成機関でのこと。将来のこと。好きな音楽のことや最近あった面白いことなど、二人は時間を忘れ語り合った
「・・・これがアタシとメイが出会った時の話。あの子とはそれ以来その橋の下でよく話をしてたわ
メイもホントに寂しかったんだと思う。親戚の家に預けられてたって言うのは嘘で
ホントは姉と一緒に暮らしてたみたいなの。でも、その姉がある事件で殺されて
それでアタシの住んでた町に引っ越してきたんだと思う・・・
だから・・・両親もいない、大好きだった姉もいなくなって・・・今思うとホントに可哀想な人生だったと思う・・・
寂しさと戦い、痛みと戦い・・・それでもあの子は笑顔を絶やさなかった・・・
そんなメイの姿を見てたら、アタシもがんばろうって・・・そう思うようになってきたわ」
「だからお前はあそこまでメイのことを気遣ってたのか・・・」
「それだけじゃないわ。アタシがあの子を最後まで守ってやろうって、そう決意したのは・・・
あの事件があったから・・・あれはいつだったかな・・・多分、アタシとメイが随分仲良くなった頃だから
初めて会ってから3ヶ月くらい後かな・・・アタシの恐れてたことが現実になったあの日・・・」
そしてまたブラックは過去を語り始める
19話完