PAST OF PHANTASY20話

「は・・・はあっ、はぁ・・・」
「お前もバカだよな。あんなのと仲良くしてっから」
3人ほどの男たちの視線の先には橋の柱に縛り付けられているメイの姿があった
もうすでに顔を上げる気力も無く、不規則な荒い息をし続ける
かなりの量吐血したらしく、彼女の足元には血だまりができている
一方の男たちはタバコと吸いながら話をしている
「しかしこうやって拘束するってのはいいアイデアだな。押さえる手間が省けて楽だぜ」
「だろう?だからあいつの時もやろうぜ」
そういうと男の一人がメイの顔にタバコを押し付ける
「あ、熱っ!」
熱さと苦痛で顔がゆがむ
いずれ自分もこうして虐めの対象になるだろうとは思っていた。
しかし実際に受ける身になると、その痛みや辛さ、苦しさは想像以上であった
このままやられ続けていたら絶対に死んでしまう。しかしここから逃げることのできない恐怖
次第に意識が薄れてきて、視界がぼんやりとしか見えなくなってくる
「(誰か・・・誰か助けて・・・このままじゃ・・・殺され・・・る・・・)」
薄れ行く意識の中必死に叫ぼうとしたが、声はおろか口すら動かない
「アンタたちもこれで終わりよ。暴行罪で訴えてやるんだから・・・!」
聞き覚えのある声がメイの耳に入る
「せ、せんぱ・・・い・・・?」
声の主は紛れもない、小さなデジタルカメラを片手に持ったブラックの姿
「この画像を証拠として提出すればアンタたちもおしまいよ」
「てめぇ・・・ナメた真似しやがって!」
数人の男たちが殴りかかる
「往生際が悪いわよ。ラフォイエ」
ブラックが左手を前に差し出すと、走ってくる男たちの中心で巨大な爆発が起こる
男たちは皆吹き飛ばされ、その場で気絶してしまった
ハンターズのみに使用を許可される「テクニック」のひとつだ
「・・・メイ!」
それを確認すると、大急ぎでメイを拘束しているものを外す
彼女はその場に力なく倒れこむが、ブラックがそれを支える
「メイ!しっかりして!」
「せん・・・ぱい・・・遅かったじゃ・・・ないです・・・か・・・」
そう一言いうと、彼女も意識を失ってしまった

それから三日後

「う・・・んん・・・?」
不意に視界が明るくなった。どこか部屋の中だろうか?今まで随分長いこと寝ていたような気がする
「あ・・・気がついたのね・・・!」
隣には女性が一人いるようだ
「(誰・・・?お姉ちゃん・・・?)」
まだ視界がぼやけていてよく見えない
次第にぼやけていたものがハッキリと見えるようになってくると、目の前にいるのが誰かわかった
「せ、先輩・・・?」
「よかった・・・下手したら死んじゃうって言われて、すごく心配したわよ・・・」
彼女の安堵の表情を見る限り、かなり心配していたのだろう
これは後から聞いたことだが、病院に搬送されたときには数ヶ所の内臓破裂と中程度の火傷
さらに全身打撲と出血多量でそんな状態で生きているのが不思議だったほどだという
「だ、大丈夫ですよ・・・先輩がいつも受けていたのに比べたらこんなの全然・・・
 私、体弱いですから」
そう言って笑って見せるが、ブラックはうつむいたまま

少しの間会話に間があった後
「メイ・・・ゴメン。アタシがもっと早くに気づいていれば・・・こんなことにならなくて済んだのに・・・
 もっと、もっと早くに気づいていれば・・・」
そのまま小さく声を上げながらその場に泣き崩れた
「ホント・・・ゴメン・・・ひっぐ・・・ふええぇ・・・」
「先輩・・・先輩のせいなんかじゃありませんよ。悪いのはあの男の人たちです
 だから泣かないでください。私まで悲しくなってきちゃいますよ・・・
 大好きな先輩を・・・私が泣かせちゃったみたいで・・・」
それを聞くとブラックの泣き声が少し小さくなる
「それに・・・先輩が必ず来てくれるって、信じてたから・・・それまでは持ち堪えるんだって・・・
 あの時の先輩の姿、すごくかっこよかったですよ。正義の味方みたいで」
「くすっ、なによそれ・・・でも・・・ありがと」
いつの間にか泣き止んだブラックがメイに見せた笑顔
「あっ・・・」
それを見たメイが思わず声を漏らしてしまう
「どうしたの?」
「え?あ、いや・・・な、なんでもありませんっ!」
顔を真っ赤にして慌てて布団をかぶる
「グスン・・・変なやつ・・・」

「アタシはこのとき、この子を守るんだって・・・そう思ったの」
「だからこの前のときもあんなに大怪我したのか・・・」
真田はいつの間にかブラックの向かい側に座っている
「うん・・・あの子にだけはもう苦しい思いをして欲しくなかったから・・・
 肩代わりできるものならば、例えアタシの命が尽きようとも・・・守ってあげたかった・・・」
声が震えている
すると真田がブラックの隣に座り彼女の両肩をつかむ
「誰かを守りたい気持ちがある人っていうのはな、その人を守ってやるんだって必死になれるから
 すごく大きな力が生まれるんだ。でも、その人を守れなかったり、失ったりしてしまうと
 今まで自分に負荷をかけていた分一気に力が抜けてしまう
 その悲壮感からお前みたいに酒におぼれたり、自殺してしまったり・・・駄目になってしまうことはよくある」
ブラックは何も言わず話を聞く
「そういう人っていうのはさ、誰かの力が必要なんだよ。誰かを守るために使ったエネルギーを
 逆に誰かに守ってもらいながら使い切った力をまた蓄えるためにね」
そういうとブラックをこちらに向かせる
「俺が君のことを守ってみせる。もうそんな悲しい顔は絶対にさせない」
その言葉を聞いてハッとしたブラック。そして次第に今までため続けてきた悲しみが一気にわき上がってくるのを感じた
何年という間自分の心の奥にしまいこんできた辛いこと、悲しいこと、苦しいこと
それらすべてが自分の胸の奥から噴き出すような感覚に耐え切れなくなり
「う・・・ひく・・・うああああぁぁぁぁ!」
真田にしがみつき大声で泣き出す。今までピンと張っていた緊張の糸が切れてしまったかのように
でも彼女はその抑え切れないほどの悲しみと同時に、何故か安心感を感じていた
それは言うまでもなく、真田の存在であった。彼がいてくれるから、安心して心の奥から泣ける
そんな不思議な感覚だった。

20話完

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