PHANTASY OF POEMS 5話

「くかぁー・・・」
仰向けになり、いびきをかきながら寝ているゾン
「もーっ、アルもナティルも来たよ!起きてってば」
ゆすり起こそうとするが、起きるような気配はなし。
「どうしたら起きるのかな・・・」
「うーん・・・仕方ない。二人ともちょっと離れててもらえるかな」
ミリアに言われるまま少し離れる
「起きないのが悪いんだからね・・・?」
おもむろにロッドを振り上げ
「ギ・ディー・・・」
振り上げたロッドが突然そこからピクリともしなくなった
「おいおい物騒だな・・・わかったわかった」
ゾンがロッドの下の部分をつかみ、そこから振り下ろせないように止めていた
「お、起きてるなら言ってよーっ!」
「悪いな、お前がどんな反応をするかと思って少し見てたんだが
 あれはさすがに荒っぽいんじゃないか?」
ロッドから手を離し、むくりと起き上がる
「さーて、全員そろったんだったら急ごうぜ。とっととやらないと日が暮れちまう」

パルムで最近発見されるレリクスの数はとにかく多い。
ニューデイズやモトゥブでもいくつか発見はされているそうなのだがパルムに比べると少ない
しかもそのレリクスの大半は未だ稼動しているもの
考古学研究者にとってこれ以上の研究材料は無い・・・が、稼動しているレリクスには
スタティリアと呼ばれる大型の機械兵が存在する為、ガーディアンズ等によって安全が確認できてからでないと調査ができないのだ

レリクスの中はとにかく広い。天井が見えないくらい高く、辺りを見回しても壁となるものが全く無い
「すごいな・・・昔の人はこんなものを作ってたのか・・・」
「最近の研究で、このレリクスが作られていた時代には私たちよりももっと高度な技術が存在したらしいの
 今よりも精密で複雑な機械装置に出会える・・・わくわくしてきたわ」
ナティルの目が輝いている。
そんな緊張感のかけらも無い彼らの前に一匹の巨大な生物が現れる
「早くも歓迎ムードだな・・・さっさとスタティリアさんの顔を拝ませてくれよ・・・!」
一気に張り詰めた空気が流れる。集中力を最大限に高め、フォトンの流れを読む
そしてフォトンが強く集まる一点を見極め、その一点から敵に向かって飛び込む
するとゾンの移動スピードが急激に速くなり、ものすごい速度で敵にスピアを一本突き刺す
相手はそのまま倒れ、消える
「これいいぞナティル!スピードが全然違う」
ガーディアンズ用装備であるゴーグルを外しながら話す
「でしょー?結構大変だったんだからね。フライヤーの応用だから勉強にはなったけど」
宇宙空間を航行する大型フライヤーは空間中のフォトン濃度差を利用して加速する。
ゾンの突き刺したスピアにはそれの小型装置が取り付けられており
ゴーグルなどを使用しフォトン濃度の高いところからスピアを通すと速度が急激に上昇する、という仕組みだ

戦闘は難なく進んでいった。敵の数も少なく、何故か大型の生物は入り口付近で戦った以来一度も目にしていない
「随分と楽じゃないか・・・こんなものなのか?」
「ううん、これはおかしい・・・最近発見されたレリクスなのに、こんなに敵が少ないのはちょっと怪しいよ」
「じゃあ何故?」
ゾンが聞き返す。答えに困ったナティルは少し考え
「んー、誰かが先に入って調査してるのかな・・・今はそれくらいしか考えつかないよ」
広い部屋に出る。敵らしき影はまだ無い
「気をつけて・・・この部屋の壁にある人型のモノがスタティリアだよ
 報告によれば突然コイツらが起動して襲い掛かってきたらしいの。犠牲者もいるみたい」
ふと、部屋の隅にあったスタティリアが青白い光を帯び始める
「さーて、いよいよ本命のお出ましだな・・・!」
青白い光が更に強くなり、遂に動き始めた。スタティリアの一種、スヴァルタス
自分たちより2倍以上はあろうかという大きさ。巨大な刃を持った剣
それは突如その剣を大きく振り下ろし、衝撃波を作り出す
それを左右に交わし、戦闘開始。
ゾンはツインセイバー、アルはフォトンポイントの切れたツインダガーをあきらめ片手ダガーに持ち替えた
ミリアとナティルは後方支援。それぞれロングボウとライフルだ
「弱点らしい弱点は無いわ!力押しじゃないと倒せない!」
ナティルが前で戦う二人に叫ぶ
「それじゃアルよ、さっきゴルモロとの戦闘でこんなもん拾ったんだ、使えよ」
戦闘中にいきなり武器を手渡す
「え?え?それはいきなりすぎ・・・」
と言いつつも渡された武器、ツインナイフを装備する。青いフォトンだ
スヴァルタスが剣を大きく横にねじる次の攻撃への予備動作。
「こいつ・・・アル、俺の後ろに来い。危ないぜ」
不意にソードに持ち替え、アルを自分の後ろに引っ張る
「えっ!な、なに?」
そして自分の真後ろにきたことを確認するとその場でソードを縦に構える
テノラ・ワークス社が製造している量産型のモデルだ
十分にねじられたスヴァルタスの持つ大きな剣がものすごい勢いで構えたまま動かないゾンに襲い掛かる

ガシャアッ!

大きな音と共に剣が二人を薙ぎ払う・・・様に見えたが
「ほらな?危なかっただろ」
それはゾンの前で止まっていた。縦に構えたソードで受け止めたのだ
「さて・・・すまんが手が痺れて動かん。後片付け、任せたぜ」

その後ミリアとナティルの後方射撃が大きなダメージを与えていた為だろうか
アルの得意技レンカイブヨウザンであっという間に「後片付け」は終了した。
「ゾン、手・・・大丈夫?」
「まだイテェ・・・」
手をおさえる。手から離れたソードがその時の衝撃を物語っていた
「こ、これ・・・折れてるよ」
アルがそれを拾い上げようとした途端、真っ二つに折れてしまったのだ
「うそ・・・強度では有名なテノラ・ワークス社の武器なのに・・・」
驚きの声を上げるミリアの隣で、真剣な表情をして倒れたスヴァルタスを凝視するナティル
「おかしい・・・武器を破壊するほどパワーのある敵じゃないって報告書には・・・」
ふと、ナティルがスヴァルタスの胸の部分に触れようとしたその時

おっと、それ以上の詮索はやめていただこうか

低い、響くような声が部屋にこだまする
4人が声のした方を向くと、そこには大柄なビーストの男性と、細身のキャストの女性
その後ろにはローグスの下っ端たちがする様な服装の男女が約10人
すると突然アルがビーストの男性を見て表情を一変させる
「お、お前は・・・」
「ほう、あの時の小娘か。まだ生きていたのか」
男性の方は表情一つ変えない。まるで仮面をかぶっているかのようだ
「私は一秒たりともお前のことは忘れなかった・・・いや、忘れられなかった・・・!」
「お、おいアル!お前どうしたんだ?」
慌ててゾンが二人の視線を遮るように立つ。
しかしその瞬間アルの今まで見たことも無いような恐ろしい目つきを見、思わず後ずさりする
「下がって!これは私とアイツの問題・・・!はああぁ・・・!」
彼女の周りに強い光が発せられる。ビーストが『ナノブラスト』する前兆だ
しかし、彼女のナノブラストは他のビーストたちとは少し違う。
「へぇ・・・こいつが噂に聞く『黄色い閃光』ですかい・・・なるほどスゲェや」
ゾンの感嘆の声。
彼女のナノブラストは身長が変化しない。遺伝子レベルからの完全なビースト種ではないからだ
そしてそのまま男に襲い掛かる
振りかぶっての右ストレート。だがそれをいとも簡単に両手で受け止める
「やはりナノブラストだけあって少しは力があるが・・・所詮はなりそこないか。アルテイル、あれだ」
アルテイルと呼ばれたキャストの女性が何か丸いものをアルの足元に投げる
「あぶねぇっ!トラップだぞ!」
しかし彼女の拳は男の手に掴まれたまま動かない。何とか離そうとするが遂にトラップが起動する
「うっ・・・うぐ・・・く・・・」
麻痺効果のあるトラップ。アルはその場からまったく動けなくなり、ナノブラストも解除されてしまった
男はそれを確認すると彼女の腕を持ったまま、壁に向かって投げつける
もちろん体が動かない為、抵抗することもできず壁に全身を打ちつけ意識を失い、倒れる
「ア、アル!」
ミリアがアルに向かって駆け出す
ゾンとナティルは黙って男をにらむ
「フン・・・アルテイル、片付けて帰るぞ」
「残念だが、そうはいかんぜ・・・仲間がやられて黙ってるような俺たちじゃねぇ・・・」
ゾンがツインセイバーからセイバーに持ち替えた
すると男が少し慌てるようなそぶりを見せ
「それがボスの言っていた伝説の剣技、か・・・
 悪いが、今のお前と戦うほど俺たちは頭は悪くない。そのスヴァルタスだけ回収して帰還させていただく。アルテイル」
「わかってる。もうすぐ終わりよ」
何かの端末だろうか。キーを叩く音が速くなっていく
すると、さっきまで倒れていたスヴァルタスが突如として消えた
「何!?」
「ナノトランサーに改良を加えれば容易いこと」
そう言い残すと、ありったけの発煙筒を焚いてその場から消え去った

5話完

4話へ  戻る  6話へ