PHANTASY OF POEMS 8話

話し終えると、何度も涙をぬぐった。あんまりゾンには見せたくないからと、さりげなくだ
いつの間にか自分の左隣に座っている彼は、ただ話に耳を傾けるだけだった

少し間があった後

「これが、3年前の今日起こった出来事。どうせなら、私も殺して欲しかった・・・
 両親をあんな形で亡くして、どうして私だけ生きてるの・・・事件を思い出すたび、いつもそんな事を考えてる
 あの時一緒に私も死んでれば、どんなに楽だったろうって・・・っ!?」
ピシャッと平手打ち独特の音がして、左頬が熱くなる
「今度また同じ事を言ってみろ。次は口を聞けなくしてやる」
いきなりの事だったのでただただ叩かれた頬をおさえ、唖然とするばかりだった
「そんな簡単に生死を口にするな!俺だって両親は目の前で死んだ
 でもな、俺は今まで一度もそんなことは思わなかった。むしろもっと生きてやるんだって、そう考えた
 別にそこまでしろとは言わん。だが軽い気持ちで死を口にするのはやめろ」
その話を聞くと、目いっぱいに涙をためてゾンをにらむ
「軽くなんて無いよ!自分の命がもう長くないコトを知らなかったらこんなこと絶対言わない!」
ゾンが瞬間固まる。
「つ、つまりお前・・・」
にらむのをやめ、またうつむいて
「・・・長くてあと数年だって。原因は自我崩壊寸前まで陥った精神的ショックと
 無茶な薬物投与で行ったビーストへの種族転換の副作用。もう、私に残された時間は少ないの・・・」

「・・・だったら尚更だ」

ゾンの言葉の意味が理解できず、彼の方を見る
「お前は、志半ばにして倒れるのと・・・残された時間で精一杯やりたいことを全うして力尽きるのと・・・どっちがいいんだ?」
「それは・・・」
もちろんやり残して倒れるわけにはいかない・・・アイツへの復讐をしないまま倒れるわけには・・・
でも、強すぎる・・・残った時間で倒せるような相手じゃない・・・
自分の力に限界があることくらい重々承知だ。

・・・力の差なんて、誰が見たってわかる。

その言葉に、いけない事とはわかっていてもついカッとなってしまい
「じゃあもう無理だってわかりきってるじゃん!他人事だからって簡単に適当なこと言わないでよ!」
思わず放ったその言葉に、ゾンは私の胸倉をつかみ
「お前はいつからそんな普通の人間に成り下がっちまったんだ!?
 力に依存したって勝てない、スピードや頭脳も重要だって昔俺に話したのはお前じゃなかったのかよ!?」
そうだ、昔そんな事を言ったことが確かにあった。
だからこそ私は力だけに頼らない、スピードや技を絡めた戦闘を得意としてきたのではないか
何も言えない私をしばらく睨むと突然地面にたたきつける様にして振り払った
もちろん背中からもろに体を打ち付ける。強い衝撃が全身を走った
一方の私を投げつけたゾンはおもむろにアックスを一本取り出し、何か叫びながら先程まで二人が座っていた岩を叩き割った
簡単に砕け散ってしまったが、その岩は大体5〜6人くらいは座れたであろうほどの大きさ
たったアックスひと振りでそんな巨大な岩を破壊してしまったのだ
そして、その場に背中を向けて座り込み
「俺は・・・嬉しかったんだよ・・・数年ぶりにあったとき、お前が昔と全く変わらない笑顔だったことが・・・
 両親が殺害されたって事件くらい俺も知ってる。その時からずっと心配で仕方なかったんだ
 もう、お前の見ているこっちまで楽しくなってくるような笑顔が見れないかと思って・・・。
 それがあの時の表情ときたら、昔と全然変わってなかった。3年間の不安が一気に晴れた・・・
 でもよ、やっぱ変わっちまってたんだな・・・。そりゃそうか、あんなショックな出来事があって、変わらない方がおかしいか・・・」

「・・・その優しいところも、昔とちっとも変わってないんだね」

その一言で、下を向いていたゾンはこちらを見る
「ゴメン。ちょっと感情的になりすぎちゃって・・・それで・・・」
ひとつ、そしてまたひとつ・・・暗くてよく見えないその顔から光る雫が落ちていく
 私・・・どうして、泣いてるの・・・?
 悲しいから?切ないから?寂しいから?それとも怖いから?
 ううん、全部違う様な気がする・・・
 でも・・・なんだろう?何かに包まれるような・・・満たされるような・・・
それ以上言葉の続かない私にゾンは一言
「泣くな、胸を張れ。お前の笑顔で沢山の人が幸せになれるってこと、忘れちゃ駄目だ」
「う・・・ん・・・うんっ!」
何故だか、その一言で悩みが吹っ切れたような気がしてきた。
目いっぱいにたまった涙とは裏腹に、満面の笑みでうなずいている自分がいた




お前の敵討ち、俺も手伝ってやる。
ナティルだって、ミリアだって、その用意は出来てるはずだぜ・・・




笑顔で応える私は、いつの間にかビーストの姿に戻っていた

8話完

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