PHANTASY OF POEMS 9話

パルムでの初任務を終えて、二日が経った。
ガーディアンズ宿舎にあるゾンの部屋。彼は大きく伸びをしてベッドから起き上がる
 「おはようございます」
機械的な声
 「おはよ、紅蓮」
 「今日も早いお目覚めですね。私としても助かります」
声の主はパートナーマシナリー。昨日適当にアイテムを与えていると、突然ボディの色が青くなり、腕が生えた
なんだと思い慌ててミリアに相談したところ、一定量のアイテムを与えるとこのように進化するらしい
 『あははっ、そんなこと真面目に相談しないでよ〜』
と笑われたのは言うまでもない話だ。
最終的にはこの間ジェイと一緒にいたあの人型マシナリーのようになるそうだ
 「俺はいつもこのくらいだよ。今日の予定は何かあったっけ?」
 「はい。先程ナティル様より連絡があって、クライズ・シティのガーディアンズ本部へきて欲しいとのことです」
 「よーしわかった。確か5Fだったよな?行ってくるよ」
そう言い残して部屋を出る。と同時に、ある思いが頭に浮かぶ

 あの寝坊で有名なナティルが俺より早く起きてるとは・・・

 「あっ、遅いよぉー。こっちこっち」
指定された場所、クライズ・シティ5Fのガーディアンズ本部につくと、カウンター前でナティルが手を振っている
 「結構急いだつもりだぞ?しかしねぼすけだったお前にそんなことを言われるとは思ってもいなかったぜ」
その少し皮肉じみた様な言い方に、彼女は頬を膨らませ
 「むぅー・・・確かに昔はそうだったかもしれないけど、今は違うもん!」
そんな姿を見ながら、少しは成長したんだと、妙に納得してしまった。

 「ところで、何故俺を呼んだんだ?実地訓練はもう少し先の予定だろ?」
 「ああえっとぉ・・・ニューデイズで急遽依頼を受けることになってね。アガタ諸島の聖地エガムに行くみたい
  ホントは訓練メニューとは違うんだけど、本部にお願いして特別に訓練扱いにさせてもらっちゃったんだ」
なるほど、とひとつ頷こうとした瞬間。突然背中に何かぶつかるような衝撃が走った
 「にゃあっ!?」
 「おわ!だ、大丈夫ですか?」
と、振り返ってぶつかった人のほうを見る。その刹那、彼は自分の目を疑った
身長はナティルよりも小さい。大体ミリアと同じか少し高いくらいだろうか。女性であることもわかる
ただそれだけでは普通。彼が目にしたのは頭にひょこっと生えた二つのネコミミ
ショップで売られているような玩具のネコミミカチューシャではない。その耳はピクピクと動いているのだ
 「にゃ。そちらこそ大丈夫かにゃ・・・?」
目の次は耳を疑った。これでは完全に猫だ!
そんな謎の少女の登場に慌てていると、遠くのほうから男性らしき声が聞こえてくる
 「おーい!姉ちゃん何処にいるんだー!」
その声を聞いた猫・・・もとい、少女がそちらを向いて
 「レイン〜!ここ、ここ〜!」
その男性はこちらに気づいたようで、走りよってくる
レインと呼ばれた彼はニューマンのようだ。少女とは対照的に少々大人っぽい感じだ
その彼が「姉」と呼んだ少女は、子供のようにニコニコしている
 「えーと、こちらの方々は・・・・?」
ゾンとナティルの方を見る
 「うん?え〜っと・・・えっとぉ・・・」
少し考えるような仕草を見せた後、再び満面の笑みで
 「わかんなーい」
3人はドリフのコントの如く一斉にコケた

 「え、えーっとレイン・バステトさんで宜しいですね・・・?」
気を取り直してナティルが問いかける
 「あ、やはりナティルさんでしたか。突然の依頼で申し訳ありません」
と、ナティルとレインが真面目な話をしているその横で、ゾンは猫・・・もとい、先程の少女とじゃれている
 「へー。本当に本物の耳なんだな、これ」
触るとピクピク動くのが面白いのか、ずっといじっている
 「ぅにゃあう・・・くすぐったいにゃ」
正に人間が猫になったらこんな感じだろう
名前はキャティ・バステト。弟のレインが教えてくれた
500年に1度だけ起こるという呪いの力によって、このような姿で生まれてきたのだという
 「ゾンー、一通り話し合いは終わったから出発するよ?」
 「お、おう。行くか」
 「うにゃ」
3人と1匹・・・もとい、4人はガーディアンズ本部をあとにした。行き先はニューデイズだ

  ◇  ◇  ◇

 「いやー、ここに来たのは久しぶりだ」
ゾンが感嘆の声を上げる。
惑星ニューデイズ。グラール太陽系第2惑星で主にニューマンが住んでいる
自然が豊富で、星全体の約80%が水だ。
グラール教団が実質の国家統治の役割を果たしている。謎の多い組織ではあるのだが・・・
 「さて、問題はあと二人をどうしようかなんですが・・・」
 「ん?俺たちだけでやるんじゃなかったのか?」
 「え?えぇ・・・今回はちょっと危険を伴うモノなので、念の為6人で行動する事にしたんです」
複数人で同じ依頼を遂行する時のメンバーの総称を「パーティー」と呼ぶ。
ガーディアンズの規則では、パーティーの人数は原則6人までとなっているというのはガーディアンズ学校で教わった
何故そのような事になっているのかは不明だが、規則である以上従わざるを得ない
 「うーん・・・誰かいたかなぁ・・・」
そう言いながらナティルが左腕の小型端末を動かしていると

 「あれっ・・・?ナティルじゃん」

ちょうどゾンの真後ろ、PPTスペースポートから女性の声がした
特徴的な赤紫の長髪が目をひく。ニューマンだ
一方の呼ばれたナティルは彼女を見るなり目を輝かせて
 「ああ・・・フレイン!久しぶり〜!」
ナティルと、フレインと呼ばれたその女性が抱き合って再開を喜ぶ
 「ナティルったら最近全然連絡してこないから、心配しちゃったよ」
 「最近仕事が忙しくなっちゃって・・・連絡する時間なかったんだ。ゴメン・・・」
フレインの方が頭半分くらい背が高い為、ナティルは少々上目遣いになる様な形だ
 「ふふっ、いいの。連絡が無いのは元気な証拠って言うし。
  それはそうと、これから何処か行くの?大勢つれて・・・」
そう言うとゾン達の方を見る
 「今からアガタ諸島の聖地エガムに行くの。そうだ!もし今日1日時間あったら一緒に来てくれないかな・・・?」
フレインはあごに手をやり少し考えた後
 「確か今日は何も予定は無いはずだから・・・良いよ。でもエガムだったらフルメンバーで行った方が良いんじゃない?」
彼女の言うフルメンバーとは先程いった6人パーティーの事だろう
 「そうなんだけど・・・みんな忙しそうなんだよね・・・」
また先程同様ナティルが左腕の端末を操作し始めてため息交じりにそう話す
ここでゾンが口を開いた
 「俺の知り合いでよければ一人これそうだぞ?」
 「ホントに!?じゃあ呼んでもらえるかな?」
まかせとけ、と言った表情でゾンが端末を操作し始めた

数分後

 「突然お呼びして申し訳ない。レイスさん」
そこにやってきたのはゾンが初めてパルムに行って出会ったキャスト、レイス・アルフォードだった
 「いやいや、構わないよ。アガタ諸島へ行くんだっけ?バレットを整理するからちょっと待っててもらえるかな・・・」
バレットというのは簡単に言えば銃弾のような物だ。
このバレットについて話すにはまずフォトンアーツというものを知る必要がある。
フォトンアーツとは万物の源フォトンを制御してデータ化し、ひとつのディスクに収めた物である
そのデータディスクを読み込み、それを武器にリンクさせる事によって様々な技を使うことが出来るようになるのだ
打撃系武器にリンクするものを「スキル」、射撃系武器にリンクするものを「バレット」、法撃系武器にリンクするものを「テクニック」と呼ぶ
「バレット」とは、射撃系武器のフォトンアーツの総称で
射撃武器に本来装填されているフォトン銃弾のデータを書き換え、付加効果のついた銃弾にするといったものだ
簡単に言えば今まで何の変哲も無かったただのライフルが、炎をまとった銃弾や、冷気をまとった銃弾を放つようになる。
レンジャー達にとってはこのバレットの恩恵なくして今の仕事は成り立たないのである
 「・・・よし、お待たせしたね。それでは皆さん、改めて宜しく頼む」
 「よろしくにゃ〜!!」
 「姉ちゃんうるさい・・・!よ、よろしく!」
 「ふふっ、よろしくね」
 「さて、仕事だ仕事・・・よろしくな」
 「ゾンはまだ仕事ってわけじゃないんだけど・・・。改めてよろしく。それじゃ、フライヤーベースへレッツゴーッ!」
ナティルを先頭にキャティ、レイン、レイスがフライヤーベースの方へ走って行った
フレインもそれを追いかけようと一瞬走るような仕草を見せたが、不意に止まってこちらを見た
 「・・・ふふ」
彼女はゾンを見てわずかに笑って見せると、フライヤーベースの方へ歩き出した
ゾンは自分の声が聞こえない位彼女が遠ざかった時
 「何か・・・目に俺は・・・える」
誰にも聞こえないような声で呟くと、フライヤーベースへ歩を進めた


9話完

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