PHANTASY OF POEMS 10話

 「アガタ諸島にとうちゃーく!」
ナティルがフライヤーから飛び降りる。
 「っておいおい・・・ここはタンゼ巡礼路じゃん。エガムまではずいぶん遠いぞ?」
フライヤーから降りたゾンが辺りを見回しながら話す
アガタ諸島とは、大水源に浮くようにして育った巨大な樹木が連なって出来た浮島の様なもの
この木は水よりも軽い樹液を大量に溜め込むため、かなり重い物が木に乗ったとしても沈む事は無い。
 「エガムまで行ければ良いんだけど、この辺りは最近ゴウグ種が海を渡ってやってくるらしいから
  フライヤーを撃ち落とされたりでもしたらひとたまりもないわ」
フレインがフライヤーから降りてくる
 「その為に護衛として皆さんをお呼びした訳なので・・・」
レインとキャティが降りてきて、最後にレイスが島の土を踏む。
ゴウグ種というのはミズラギ保護区とその周辺に生息する巨大な原生生物
テンゴウグ、オンマゴウグ、ゾアルゴウグ等といった種類が中でも凶暴、凶悪で
フライヤーが攻撃を受け墜落する事件も多数報告されている。
 「な〜るほど。で、どっちに行けば良いんだ?」
南と北に道が分かれている
 「ゾン・・・マップをよく見てよぉ・・・エガムは北方向だよ?」
マップを確認するゾン
 「・・・よしわかった。こっちだな!」
 「そっちは南だにゃ〜!」
あろうことかマップを見て方角を確認したにもかかわらず進むべき方向と逆に行こうとしたのだった
 「くそおお!地理は苦手なんだ!」
 「・・・もう、バカなんだからぁ・・・」
頭を抱えるナティルであった

ゾンの暴走を止め、正しいルートでエガムへと向かう。
ここでふとフレインが
 「やっぱり寺院への道なだけあって、この辺りは霊が多いなぁ」
 「な、なんだよお前いきなり・・・」
その突然の一言で、ゾンをはじめ全員が驚いた
 「あ、言ってなかったわね。私、何故かは知らないけど幽霊が見えるの。昼夜問わずね
  ほら、ここにも一人ニューマンの霊が・・・」
ゾンの肩の辺りを指して言う
 「お、おいおい・・・流石に冗談きついぜ」
顔が引きつった笑いを浮かべるゾンの言葉はまるでフレインには届いていなかった
彼女はそこに「いる」霊と会話をしている
・・・といっても、「見えない」人達にとって彼女の行動はただ虚空を見つめて独り言を放っている様にしか映らないのだが。
 「うん?そう・・・。そこにいるのは女の子の霊なんだけど、つい最近この辺りで力尽きたガーディアンらしいの
  もし私の話が本当ならまだこの近くに・・・」
フレインが辺りを見渡して、ある場所を指差す
 「う、うわ・・・あ・・・」
彼女の指差す方を見たナティルが思わず口まわりを手で覆う
そこにあったのは血まみれでうつぶせになって倒れているニューマンの少女の姿だった
 「可哀想に・・・たった一人で大量の原生生物を相手にしたそうよ・・・」
血まみれでよく分からないが、大きな無数の刺し傷切り傷が生々しく残っている
何の躊躇も無くそれに近づきしゃがみこむフレインとは対照的に、レインにしがみつき目に涙を浮かべるキャティ
それを見たフレインはその遺体に一度手を合わせると
 「・・・もう数え切れないほどこんな風に人の遺体を見てるから、もう慣れちゃったわ
  原生生物が凶暴化して以来、霊たちの叫びを聞かない日は無いもの・・・」
そう言うと立ち上がり
 「この辺りはカマトウズが多く出るらしいわ。ダム・バータや突進に注意しないとね」
 「それもまた霊からの情報・・・か」
 「ゾン君・・・だっけ、話が分かる人でよかった」
ゾンにそう微笑みかけた
 「カマトウズかぁ・・・銃器があんまり効かないから、みんな頑張ってね〜」
 「だからといってサボるんじゃないぞ!」
 「なに〜っ、ゾンじゃないんだから私はそんな事ないよぉ!」
ナティルとゾンの低レベルな言い争いに、他の4人は苦笑するほか無かった

先程の場所から少し歩いたところ、今までの細い道から大きな広場のようなところに出てきた
 「大抵こういうところには敵がわんさか出てくるんだよな・・・」
その言葉は数秒後、現実のものとなるのであった。
広場の中央くらいまで歩いてきた時、彼らを囲むようにして原生生物たちが出現する
 「案の定きやがったな・・・」
 「というか、多くない・・・これぇ・・・?」
 「フーッ・・・!」
 「姉ちゃん、あんまり興奮しすぎちゃダメだって・・・!」
出現したのはオルアカとカマトウズおよそ10匹
 「レンジャー組はオルアカを、ハンター組はカマトウズをそれぞれやろう。レイン君はサポートを頼む」
 「言われなくても・・・」
レイスが指示を出す前にゾンがカマトウズの一匹に飛び掛っていた
 「わかってらー!」
ツインセイバー系のスキル、アサルトクラッシュの高速攻撃でカマトウズに動く隙すら与えない
しかしカマトウズに気をとられ過ぎたあまり、背後まで迫ってきたオルアカへの反応が遅れてしまった
 「おおっと!?」
間一髪オルアカの頭上を超えてジャンプ。そしてそのまま落ちる勢いでオルアカに剣を突き刺す
硬い表皮に覆われているとはいえ、落ちる力とゾンの突き刺す力には勝てず
表皮を突き破り剣が刺さり、緑色の霧となって消えた
 「あんまり一匹に気を取られすぎちゃダメだよー!」
遠くからナティルが注意の声を上げる
だが彼女もそれに気をとられ過ぎていた為か、近寄ってくるオルアカに気づかなかった
 「ナティル、後ろだ後ろ!」
 「はぇ?うし・・・きゃあっ!」
ゾンの声も一瞬遅く、オルアカの突進で吹き飛ばされる

バシャッ

と同時に、何か液体にモノが飛び込んだような音がする
 「あいたたた・・・ううびしょびしょだよぉ・・・」
オルアカに吹き飛ばされた先に水溜りがあった様で、飛び込んだのはナティルだった
 「あーあー・・・昨日雨降ったからなぁ、この辺り・・・」
ゾンが苦笑いしている横で、レインが血相を変えてナティルに叫んだ
 「ナティルさんまずい!早くそこから出て!」
今度は特に返答も無くナティルがその場から立ちあがろうとした瞬間
カマトウズの放ったバータがナティルのいる水溜りに直撃した
 「ふぁ・・・!?」
 「くっ、遅かった・・・!」
テクニックの一種、バータは空気中のフォトンの流れを操作し
強力な「冷気」を地面に這わせる技
つまり、強力な冷気が水に接触すれば起こる現象は一つ
 「つ、つめた・・・い・・・」
水溜りが一瞬で凍り付き、中にいたナティルを閉じ込め動けなくしてしまった
体の半分近くが水に浸かってしまっていた為、もう全く身動きが取れない状態だ
そんな状態でも、敵は容赦なく襲い掛かる
カマトウズがナティルめがけて両手の剣の様になった腕を振りかざし突進してくる
 「ひあ・・・!」
その緑色をした影は、ぐんぐん迫ってくる

10話完

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