PHANTASY OF POEMS 11話

身動きを封じられたナティルにカマトウズが突進する
動けないナティルはその場で目をつぶった

カマトウズが迫る

後10メートル

あと5メートル

アト3メートル

1メートル

・・・・・・

・・・

 「・・・?」
ナティルが目を開く
相変わらず手足は氷に閉ざされピクリとも動かない
しかし、動かないのは手足だけではなかった
 「あ・・・れ?」
彼女の前には巨体を横たえて動かないカマトウズがあった
そしてそれはポンッという音と共に緑色の霧となって消えてしまう
消えたカマトウズの先に見えたのは
 「全く・・・本気(マジ)でやると疲れるぜ・・・」
 「ゾン・・・?ど、どうやって・・・」
状況が一切のみこめていないナティルには何故そこにゾンがいるのかが全く分かっていない
それもそのはず、ゾンはナティルから最低でも15メートルほど離れた場所にいたからだ
カマトウズの突進攻撃は普通に走っては到底追いつくことなど不可能なスピード
だがカマトウズよりも遠い場所にいたゾンが今彼女の目の前に立っているのだ
 「だからパルムで言ったろ?本気でやると体が持たないのさ」
あっけにとられるナティルにそう言い、これもまたあっけにとられる他の4人に今度は
 「さて、誰かこの氷何とかできないか?早くしないと風邪ひいちまう」
その言葉にようやく我に帰ると、レイスがこう切り出した
 「あるにはあるが・・・バンフォトンを持っていないか?」
レイスはナノトランサーから片手で持てる位の大きさをしたある装置を取り出した

 「これはな、簡単に言えば携帯カイロの強力版。熱エネルギーを取り出す為のバンフォトンがある程度あれば
  氷くらい楽に溶かす事ができる。使うフォトンの量を多くすれば水を蒸発させる事だってできるよ」
赤い色をしたフォトンをその装置に開いた穴に放り込むと、すかさずそれを氷の上に置く
すると徐々に置かれた部分から氷が溶けはじめ、ものの十数秒で完全に氷は姿を消してしまった。
 「あ、ありがとうございます」
ようやく氷から開放されたナティルはレイスに一言感謝の言葉を贈った

 * * *

そこからというもの、目的地のエガムまで敵に遭遇する事は無かった
きっと何かある・・・と不安そうなのは依頼者のレインただ一人
ナティルはフレインと世間話。キャティはレイスになついたらしく、彼の肩の上に乗っておしゃべりしている
レイスは体格がよく、肩幅も大きいので小さなキャティを肩に乗せることくらいは容易に可能だった。
先程人間技とは思えない攻撃を涼しい顔でやってのけたゾンも、今しがた大きなあくびをした――

瞬間、彼の目つきが一気に変わった。

 「誰!?」
声を上げたのはフレインだった。短銃を草の茂みへと向ける
 「フフフ。やはり『その二人』には見破られていたわね」
その茂みから女性の声が聞こえる。声色からして、若い。
 「フレイン・グラスウッドにゾン・リライズ。貴方たち、噂どおり只者じゃないようね」
 「お前こそ何者だ。まるでテレポートでもしてきたかのように突然現れて。目的は何だよ」
ゾンの問いに即答する様に茂みから声がする
 「目的? 私達ブラッディ・スターが、わざわざ目的を教えてあげるとでも?」
その声はまだ続く
 「まぁ・・・一つ言うとすれば、貴方たちは『選ばれた』のよ、我々の計画に。また会うことになるから、その時は宜しくね」
声が止む。それから少し経って、不意に カシャッ という音が聞こえた
カメラのシャッターオンとは少し違う。しかし、それが何であるかというはっきりした答えは出てこない
フレインはその音がした場所へ恐る恐る近づく
 「・・・えっ!?」
ある程度進んだ彼女が突然驚いたような声を上げる
何事かと全員がその場に集まる
そして、彼らが目にしたものは
 「じ、冗談だろ・・・」
 「そんな・・・あれが・・・」
 「『録音』だったということか・・・?」
そう、彼らの前にあったのは小さなスピーカーとレコーダーだった
つまり今まで茂みから声がしていたのは、その場に人がいたのではなくこのスピーカーからの声だったのだ
 「見たところホントにただの録音・再生のみのレコーダーだよ・・・」
 「ということはにゃ・・・あの女の人は話をずーっと先読みしてたにゃ!?」
全員背筋が凍るほどの恐怖とショックを覚えた。
相手は予言者か?それとも頭脳零細な超天才か?
そしてその相手は『選ばれた』と意味深な言葉を残しこの場を去った――
しかし、皆が慌てふためく中ゾンだけは冷静だった
 「というかよ。声の主かどうかは知らんが・・・まだそこにいるんだろ?バレバレさ
  レコーダーには一切遠隔操作できるような装置はついていなかった。つまり・・・」
ゾンが次の言葉を続けようとした瞬間、フレインが目の前に飛び出し――

それとほぼ同時にして、一つの影が彼女と交錯する

 「流石、第6感を持つというのは侮れぬようだ」
衝突してきた相手は女性らしい。ただ先程レコーダーから流れていた声とは少し違う。
 「この私ブラッディ・スター諜報係、華桜聖 風舞の技を見抜くとは」
バック転でフレインから間合いを取り、風舞と名乗るその女性が先程のレコーダーを回収する
 「全ては先程話した通り。我が姉様に狙われるとは御主達も哀れ也」
言い終えると、突然爆弾にも似た『何か』を投げつけた
それが地面に接した瞬間――小規模な爆発と共に煙があたりに立ちこめる

――煙が晴れた時には、既に風舞は姿を消していた。
 「なんだよあいつ・・・全く気配が無かったぞ」
 「それだけじゃない。あのすばやい身のこなし・・・相当な訓練をしないと到底できない芸当だ」
 「・・・あれはね、グラール教団の特殊部隊『忍者』と見て恐らく間違いないと思う」
レイスの分析をフレインが結論づける。
 「忍者? 僕は18年、生まれてからずっとニューデイズに住んでるけどそんなもの聞いた事が無い・・・」
 「知らなくても不思議じゃないわ。グラール教団親衛隊の、トップクラスに所属する人間の中からだけ引き抜いてるらしいの。
  人格、能力、体格、それら全てが教団の決めたある一定の数値以上でないと
  入隊はおろかその存在すらも知らせてはくれない、超重要機密事項よ。
  でもその分彼らの力は半端じゃないわ・・・スピードとテクニックにおいては太陽系最強かもしれない」
 「あの、なんでそんな『ちょーじゅーよーきみつじこー』を知ってるにゃ?」
熱弁(?)するフレインにキャティが率直な質問を述べた
 「昔、教団関係の事で腑に落ちないことがあって・・・ナティルに頼んで教団のメインサーバーにハッキングしてもらったの
  元々は別の情報目当てだったんだけどね。そうだよね、ナティル?」
フレインが問いかけるが、ナティルは反応が無い。
 「・・・どうしたの?」
 「ふぁい!? あ、いや・・・なんでもないよ」
驚いて素っ頓狂な声を上げる。少し顔色が悪いだろうか
 「大丈夫? 顔色悪いよ・・・?」
 「う、うん。大丈夫だよ・・・っと、ととと!」
ナティルが不意にバランスを崩し、ゾンに倒れ掛かった
 「大丈夫じゃなさそうだな。熱っぽいぞ」
 「さっきのバータで体が冷えたんだろう・・・今日は帰って休んだ方がいい」
 「で、でもぉ・・・」
 「ミッションの事ならご心配なく。もう目的地はすぐそこですから、ゾンさんの訓練記録にもしっかり入れておきます」
少しずつ熱が上がってきているのだろうか、徐々に顔が紅潮し始めていた
 「ゾン君、フライヤー運転できるでしょ? ナティルを部屋まで送ってあげて。
  この先は私たちだけでも十分いけるから、頼めるかしら?」
 「ああ、任せとき。それじゃみんな、怪我だけはすんなよー」
 「はうう・・・ごめん、ごめんだよぉ・・・」
ゾンはナティルを連れ、シコン諸島を後にした。

11話完

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