PHANTASY OF POEMS 16話

飛び交う銃弾、あちこちで起こる爆発音――

そんな、まるで戦争でもしているかのような今回のミッション現場
 「・・・なぁ、こんなド派手にやって施設全部ぶっ壊すつもりか?」
ゾンは目の前の光景に唖然とするばかりだった。
倒せど倒せど出現するポラヴォーラやジャーバ
ミズラやヴォルフもいたるところで大量発生を続けている
 「大丈夫だよぉ。この程度じゃ施設そのものはビクともしない、と思う・・・」
 「思う、なんだな・・・」
 「う、うん・・・」
この様子を見るとナティルもまた、こんな状態だとは思っていなかったらしい。
今の時点で同盟軍の姿は見えないが、もしこの状況が続くとしたら登場もありえるかもしれない
そのくらい、ものすごい数の実験用動物の数なのだ
まだ誰にも手をつけられず、最早無法地帯と化している場所がいくつもある――
 「これは、1日2日じゃ終わりそうにないな」
 「話によれば、1週間もこんな状態が続いてるんだって・・・」
唖然呆然。頭を抱えるゾンであった――

 * * *

ジャーバの放つ紫色の球体を寸前でかわし、横から迫るヴォルフを前宙してやり過ごす
着地と同時に目の前のジャーバにツインセイバーの片方を突き刺し、もう片方を自分の後方に振り上げる
その場に倒れるジャーバ。更に後方にいたヴォルフ数体をまとめて斬り倒す。
 「ふぅ、面倒な敵ばかりだな、ここは」
二人は誰も手をつけていなかったとある区画を掃討していた。
比較的数は少なかったようで、3時間ほどでモンスター達は姿を現さなくなった
それでも、3時間戦いっぱなしであったわけなのだが・・・。
 「ナティル、さっさと次の区画行くか? それとも少し休むか・・・って、どうした?」
何故か青ざめたような顔をしているナティル。また体調が悪くなったのだろうか
 「ご、ゴメン・・・ちょっと一回地上に出るねっ!」
そう言うといきなり、近くにあった地上へ出るための階段を駆け上がった
 「お、おい、いきなりどうしたんだよ!?」
勿論、ゾンも慌てて追いかけていく

――階段の先は、メルヴォア・シティの中心部だった。
ナティルは意外にも足が速い。ゾンは見失わないように追いかけていくので必死だった
しかし、どうやら向こうが止まったらしい。しめたとばかりに走る
 「ふむ、今日は『お供』がいるんだな。お前にしては珍しい・・・」
ナティルに話しかけているのは男性。しかし、声はすれども姿は見えず
 「兄貴、まだ『いつもの』コイツじゃないぜ。倒すなら今のうちだ」
今度は違う、別の声がする。こちらもまた、姿は何処にも見当たらない――
ここでようやくゾンが追いついた。周囲の物々しい雰囲気をすぐさま感じ取り、一気に表情が変わる
――変わったのは、ゾンだけではなかった
 「ナティル、これは一体・・・?」
その問いに答えようともせず、ナティルは一つの武器を取り出した――
クロスボウ。しかもひとつではない、右手と左手に各1本ずつ手にしたのだ
 「そうか、だから私にこのミッションが舞い込んできたわけだ・・・貴様等も、随分頭を使えるようになったじゃないか」
聞き間違いではない、今の声は明らかにナティルの声。しかし、それは今までの彼女の雰囲気を微塵も感じさせなかった
言葉ひとつひとつに覇気があり、力がある――
それに、その声には有り余る『自信』が満ち溢れていた
 「ゾン、詳しい事は後で話す。今は目の前の敵に集中しろ」
 「え、あ・・・ああ、わかった」
あまりの変貌ぶりに動揺を隠せない。
人の中にはフライヤーのハンドルを握ると人が変わる、という人もいるそうだが
ナティルはそんな感じなのだろうか?
 「クク・・・ようやく本領発揮か、ナティル・ネッカート・・・」
 「ん・・・ちょっと待てよ、こいつの名前はナティル――」
 「ゾン」
話を続けようとしたゾンの口を手で塞ぐ
 「話は後ですると言った筈だ。手間をかけさせるな」
その言葉には威圧にも似た『力』がこもっていた
 「さて、そろそろ準備は良いのか? 今日こそその首へし折ってやるよ!」
 「フン、そんな事言って30分後には逃げ帰るお前らが、まだそんな事を?」
嘲笑しながら見えない敵に向かって話す
・・・念を押すが、ゾンには勿論、ナティルにも敵はおろか人影ひとつ見えていない
つまるところ、ここメルヴォアの地は完全に敵地なのだ。
 「黙れ! 今回こそは違うところを見せてやろう」
その刹那、いくつかの影が建物の間や瓦礫の間を、ものすごいスピードで駆け巡った



16話完

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