PHANTASY OF POEMS 17話

 「さあ、ショータイムの始まりだ!」
その声と共に、さっきまで瓦礫や建物の間を駆け回っていた影が一斉に二人に襲い掛かる
数は5人――全員使っている武器は同じもの、ツインクローだ
二人はそれぞれが被害の及ばない位に横っ飛びして距離をとる
 「まずは雑魚で様子を見る、って寸法か・・・」
一人がゾンに攻撃を仕掛けるが、あっさりとツインセイバーで受け止める
 「ゾン、本気(セイバー)はまだ出すな。こいつらスピードだけで力は無い」
ナティルがツインクロスボウで敵を撃つ
このクロスボウも普通ではない、一度に矢が5本発射されている――
つまり、一度の攻撃で10発の矢を敵に撃ち込む事が可能なのだ
さらに5本発射の利点はそれだけではなく、射程の『広さ』も特徴
 「ぐ、うわっ!」
ナティルの前方180度はほぼ確実に矢が当たってしまう――今しがた、一人が被弾し倒れたところだ
 「まだこの程度じゃ、マジにはなれねーな・・・!」
攻撃を受け止めた状態から、一度ゾンが力を抜く・・・そうなれば当然、相手は前につんのめる状態となる
こうなってしまうと、後はツインセイバーの柄で後頭部を思い切り叩けば――
 「ほい、一丁上がり」
と、なるわけである。

ナティルは器用に相手の攻撃をかわしながら、周囲の敵に向かってもクロスボウを撃ち続ける
クロスボウでは、ゾンのように攻撃は受け止められないからだ。
そして遂にかわし続けるのも限界だったのか、一度大きく後ろに跳ぶ――
 「甘いな・・・」
勿論、遠距離戦になっては相手は分が悪い。ナティルを追うように前方へ跳びだす――
しかし、相手は途中で失速し、そのまま倒れてしまった。
 「フン・・・甘いのは、貴様の方だ」
先ほど後ろへ跳んだ瞬間に、ハンドガンを取り出し相手の眉間に撃ち込んだのだ
しかしここで疑問が残る。ナティルの両手はクロスボウで塞がっている。勿論、瞬時に持ち替えたわけではない
――蹴ったのだ。武器を足の付近へ転送し、相手を狙いトリガー部分を蹴る・・・
これを、一瞬でやってのけたわけだ。
 「・・・ゾン、終わったな?」
 「勿論。だが、最後の二人は片方のクローが無かったぞ?」
ゾンが倒したのであろう横たわる二人は、それぞれ片腕だけ武器を持っていない
 「私が撃ち落したからな。無いのは当たり前だ」
さっき攻撃をかわしながら撃っていた矢が敵の武器を撃ち落していたのだ
それをまるで当然とでもいうようにさらっと言ってのけてしまうナティルだった。

 「ふん、所詮は雑魚。前座程度で死なれては困る」
 「ああ兄貴。これからが本番ってやつだよな?」
未だ姿の見えない二人がいよいよ姿を現した
 「うわ、なんだよコイツ・・・」
ゾンが驚くのも無理はない。瓦礫から音を立てて飛び出した彼らは、巨大なマシナリーに搭乗していたのだ
軍用マシナリー、グリナ・ビートを更に改造したような形だ
 「ははは! ナティル、お前の銃撃は一切効かんぞ! こいつぁ特殊なバリアを張っているからな!
  お供の剣だってこの特殊金属の前ではビクともせんわ!」
 「全く、無駄に金ばかりかけた代物だな・・・ゾン、あの手のマシナリーには致命的な弱点があると、昔教えたよな?」
 「えぇ・・・もちろん覚えてますぜ、教官よ」
ゾンはおもむろにソードを取り出した
 「・・・何を考えている?」
 「名案が思いついたんだよ。俺が合図したら――」
小声でナティルにその作戦を伝えると、彼女は黙って瓦礫の上に跳び上がる
ゾンも相手の背後にまわりこむべく走り出した
 「そんな瓦礫の上に立って・・・ようやく死ぬ覚悟ができたと言うのか?」
 「ああ、そうだな・・・」
ナティルの目に、ゾンの手を上げる姿が目に入る――合図だ
 「ただ、死ぬ前にひとつ言っておきたい事がある」
 「ほう・・・なんだ? 遺言でも残そうというのか」
 「貴様等に、『さようなら』と、言っておきたかったんだ・・・」
瞬間、ライフルを足元に転送し蹴り撃つ――
その弾丸は、一直線にソードを構えるゾンに向かって飛んでいく
 「一生会えなくなる前に、な・・・」
ゾンは飛んでくる弾丸に、ソードをまるで野球のバットの如く振りぬいた――
弾丸を打ち返したのだ――そしてそれは、マシナリーの背面に直撃し
 「兄貴まずい! 背面に被弾し・・・」
マシナリーは、凄まじい爆音と共に吹き飛んだ。

 「ナイスバッティング」
 「ナイスコントロール」
二人がハイタッチする。作戦とはこの事だったのだ
 「しかし、本当に背面にはシールドを張っていなかったのか・・・よく分かったな」
こればかりはナティルでも分からなかったらしい
 「まあな・・・」
瓦礫に座る。流石に二人とも疲れたのだろう
 「それで、今の連中はなんだ? それにネッカートって一体・・・。しかも、人格まで変わって」
 「・・・そうだな、話をする約束、だったな」
ナティルが口を開く
 「これは『裏』の顔・・・ネッカートというのは、私の旧姓だ。そして奴等は、私の命を狙ってきていたんだ。
  もう、あの家の人間ではないというのに・・・」
 「あの家・・・?」
 「ネッカート家の事だ。表向きは普通だが、裏では殺し屋一家として、その道の人間たちに恐れられている存在なんだ
  私も、物心ついた頃から武器の扱いを学び、初めての『仕事』は6歳の時だった」
ここでいう『仕事』とは、恐らく殺人の事だろう
そんな低年齢で、彼女は人殺しの道に進んでしまったのだ
 「最初のうちは、仕事をこなせば両親が喜んでくれるからと、どんどん技術を身につけていったんだ
  銃の蹴り撃ちも、その頃会得した・・・。
  だが、10歳になる頃に今のままで良いのかと、妙に考え込んでしまってな・・・
  その頃から少しずつ、私に恨みを持つ人間が現れ始めて命を狙われだしたというのも、理由のひとつだがな。
  結局、両親を説得し家を出たんだ・・・。その頃に、『表の顔』を無理矢理作って自分を偽った。
  しかし、とんだアホ娘を作ったものだ、私も・・・」
そう言って少し笑った。
偽りの自分を、無理矢理表の顔にしてしまった彼女の、少し哀しげな笑み
 「でも・・・ゾンやアル、ミリアに出会えて表の顔は本当の意味で表になった。
  お前に会えなかったら、今の私は無かったな・・・。その意味では、感謝しているよ」
 「そうか・・・」
神妙な面持ちで話を聞いていたゾンが、今度は口を開いた
 「3人の中で、一番変わらないな、と思っていたのがお前だったんだが・・・
  どうやら、お前が一番変わったんだな」
 「はははっ、そうかもしれないな・・・」
お互い、笑いあった――

 「しかし、お前が家を出たら後継ぎはどうしたんだ? そんな家が簡単に潰れる訳無いだろうし・・・」
 「それなら、妹が立派に後継ぎを務めているよ。私よりも、あの子の方が優秀だからな」
ゾンは勿論、彼女に妹がいる事を知らない。
子供時代から両親も見た事がないと、今更ながら思い出した
 「さて・・・そろそろ、『表』の私に戻ろう。さっきの爆音を聞いて誰かが来る可能性がある
  それに、いい加減ミッションに戻らないといけないだろう」
 「おっと、ミッションの事すっかり忘れてたぜ・・・。じゃ、行くか」
立ち上がるゾン。ナティルもクロスボウをしまい
 「うんっ、頑張るよぉ〜!」
『いつもの』ナティルに戻った――



17話完

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