PHANTASY OF POEMS 18話

プラントに戻ってきたナティルとゾン。当然のことながらいまだ掃討作戦は終わっていない
しかし、地上に出る前と今とでは、何か雰囲気が違った――
 「時々爆音をたててはいるみたいだが・・・妙に静かだな」
物々しい雰囲気が辺りを包んでいる事が、二人も手に取るように分かっていた。
この異様な空気と、激しい爆音から想像できる事、それは
 「同盟軍が、動き出したんだね・・・」
などと、のんびり言っている場合ではなかった――
二人の目の前で、突如砲弾が唸りをあげたのだ
 「ひゃわっ!?」
 「っち、範囲攻撃してるのか・・・! とりあえず逃げるぞ!」
砲撃された方向と逆に走ろうとする二人だが

 『そこのお二人、とまってください〜〜〜』

 * * *

 「で、あんたはなにもん・・・」
 「はいっ! AMFヒューマン部隊所属、ステラ・ショートと申します」
ゾンが質問し終わらないうちに即答する。
呼び止められた戦車に乗っていたのはヒューマンの女性だった。
まだ顔に幼さが残っている。雰囲気からして10代である事は間違い無いだろう
そんな人が、軍服を着込み戦車に乗っていたのだ。
 「えーえむえふ・・・?」
 「同盟軍の略称です。ご存知ありませんでしたか」
手を頭の後ろに回して気まずそうに笑う
 「・・・っと、そうじゃなくて。この一体は現在同盟軍の作戦地域になっています
  早く脱出した方がいいですよ。結構大掛かりな掃討をやってますし、それに・・・」
二人の耳元に近づいて、こっそりと話す
 「今回は私だったからいいですけど、キャストの方が乗ってる戦車に会うと悲惨ですよ・・・?
  以前にも作戦地域に残っていたガーディアンズに『誤って』砲撃して、死亡させちゃったそうですし」
言い終えるともとの立ち話をしていた状態に戻る。
その口ぶりを見ると、『誤って』砲撃した様ではないみたいだ
 「ですから、もし同盟軍の格好をしていない別の方にお会いしましたら、すぐ作戦地域から退避する様にと、伝えてください」
それだけ言うとぺこりとお辞儀をして、戦車に再び乗り込み走り去っていった。
 「なら、さっさと逃げるか・・・」
 「そうだね〜・・・」
ステラの戦車に乗せてもらって帰ればよかったと、少し後悔した二人だった――

 * * *

流石は同盟軍が掃討作戦を展開しているだけあってか、道中に敵の姿は全く見られなかった。
おかげで見積もっていた時間よりも断然速いスピードでホルテス・シティに到着した。
 「ふぅ〜。随分と早かったな・・・空いた時間、どうするか」
 「もし時間があるなら、どこかフリーミッションでも受けにいく〜?」
少し腕組みして考える。
――そして、考えがまとまったのか口を開いた瞬間
 「んっ・・・ち、ちょっとまって。通信が・・・」
通信端末をナティルが開く。最初は普通だった彼女の顔が
 「え・・・? う、ウソでしょ・・・」
みるみるうちにその表情が不安と焦りの色を見せ始めた
通信を切断した時には、辺りをきょろきょろ見わたし、いかにも不安で一杯といった様子だった。
 「どうしたんだ?」
 「た、大変だよぉ・・・モトゥブで最終試験をしてたアルから連絡があったんだけど
  ガレニガレ鉱山でミリアがさらわれちゃったって・・・!」
突然の誘拐事件――
いきなりの事でゾンも非常に驚いた顔をするが、すぐに真剣な面持ちに変わった

――ガレニガレ鉱山付近にある、ガーディアンズ達の野営基地
ゾンとナティルがフライヤーからこの地に降り立つと、すぐにアルが駆け寄ってきた。
どうやら、背後から何者かに襲われその場で気絶
意識が戻った時には、既にミリアの姿はなかったそうだ。
 「私が、不注意だったばっかりに・・・」
アルは立ったまま、ナティルの胸に顔をうずめている
 「どうしよぉ・・・探すにしても、手がかりが無さ過ぎる・・・」
 「だからといって、探さないわけにいかないだろう。しかし、やはり手がかりが無いんじゃ・・・見当もつかん」
悔しそうに話すゾンの背後から――ふと、声が聞こえた

 「わかるぜ。誘拐犯も、その娘の居場所も」

振り向くゾンの目に映った人影は
 「ジェイ・・・?」
 「無駄話をしている場合ではない。早くしないとあの娘、いつ死ぬか分からんぞ」
無表情のジェイ。この間とちがって、いきなり手を出すような事は無い様だ
むしろ、その話し方は少しの焦りを感じる。
 「どういうことだ?」
 「あの娘は今、SEEDの実験体にされようとしている。
  ローグス『ブラッディ・スター』が、SEED兵器の研究を実験段階まで進めているという噂だ
  失敗すれば勿論・・・わかるな」
話を聞かされた3人は一気に背筋が凍る。
今グラールの文明を脅かしているSEED――それを、あろうことか兵器として利用しようとしているのだ
そしてその実験体として、ミリアは連れ去られたという。
 「・・・場所は?」
ゾンも焦りだした。
 「案内する。が、時間が無い。誰かフライヤーを操縦できるやつはいないか?」
ナティルに視線が集まる。
 「・・・お前か。少し難しい注文もするが、頼んだぞ」
 「う、うんっ。頑張る!」

フライヤーは、一気に出力限界速度まで加速した――



18話完

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