PHANTASY OF POEMS 19話

 「んっ・・・あれ・・・?」
ここは、一体何処なのだろう・・・薄暗い、窓も無い小さな部屋
 おかしいな・・・アルの研修に来たはずだったのに・・・
 そうだ、誰かが背後から迫ってくる気配がして・・・振り向こうとしたら、急に頭を・・・

 ・・・。

 う〜ん、そこから先が思い出せない。
 「と、とにかく・・・アルは何処にいるんだろう」
立ち上がり、歩きだそうと足を前に進める。

しかし、彼女の手足にはとんでもないモノがはめられている事を、まだ気づいていなかった。

突然、バチッという聞き慣れない音が響く
 「うわああっ!?」
全身を電流が流れたらしい感覚が襲う。フッと力が抜け、その場に倒れた
 「い、いったい、何・・・!?」
あまりに突然の出来事だったので、何が起きたか全く理解できていなかった。
どうやら、自分の手足は鎖で壁に繋がれてしまっている様だ。
ある程度の力で引っ張ると、電流が流れる仕組みなのだろう
 「ようやく、天使のお目覚めのようね」
不意に、目の前の扉が開いた。現れたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべる20代くらいの女性
しかしその笑みとは裏腹に、彼女の放つ不気味なオーラは、まるで普通のヒトではない。
 「な、なんでそんなニヤニヤしてるの・・・?」
 「だぁ〜って、ミリアちゃんだっけ? アナタの悲鳴、と〜っても可愛いんだもん♪」
甘えるような声に、背筋の凍るような思いがした。

普通のヒトじゃない――改めて、そう確信したのだ。

 「やぁ〜ん、そんな怯えた目で見つめないでぇ・・・可愛すぎて襲いたくなっちゃう〜〜〜」
恐怖で声も出ない、勿論身動きひとつ取れやしない。
そんなミリアを見て、女性は更に甘えた声で
 「もぉ〜、私ってばこんなちっちゃな子に欲情しちゃうなんて・・・イ・ケ・ナ・イ・ヒ・ト♪」
俗に言う『ブリッコ』調の話し方であるが、とにかく恐ろしくて仕方がない。
しかし、この言葉はミリアのプライドが許さなかった
 「ボ、ボクは子供じゃない! これでもれっきとした大人っ!」
まるで論点のズレた内容だが、彼女としてはどうしても言いたかったのだろう。
しかし、女性はミリアの言葉で表情が一変し
 「あらそう・・・? それなら、『大人』として扱わせて頂こうかしら」
パチン、と指を鳴らした瞬間、ミリアにはめられた鎖がどんどん壁に吸い込まれていき
あっという間に壁に貼り付けにされてしまった。

 「あ・・・え・・・?」
ただでさえ恐怖で精神的に限界なのに、追い討ちをかけるようなこの状況。
目に涙の浮かぶミリアに、女性は話を続ける
 「うふふ・・・アナタは選ばれたの。実験に協力してもらう為に、ね」
監禁して身代金でも要求するのかと思っていたが、事態はそれ以上に深刻のようだ。
 「そんな・・・名前も知らないのに、協力なんてできるわけないよっ!」
 「へぇ〜。そんな反抗的なコには・・・ちょっと大人しくなってもらおうかしら」
その声とほぼ同時に、またあの嫌な音がして――
 「あ、あああっ!」
ミリアの悲痛な叫びが、部屋に響く
 「はぅ〜んっ、可愛い声〜っ」
甘えた声。しかし直後、その表情が一瞬にして冷酷な顔に変わり
 「その悲鳴・・・もぉっと聞いていたいわ」
彼女が手に持っているリモコンのようなものが、電圧を調整しているのだろうか
その手が動くたびに、激しい衝撃が全身を貫く。

 「っくぅああぁっ!」

 「ぐ、くうぅっ!」

 「はっ、くぁう!」

既にまともな声をあげることすらできなくなっていた。
全身がしびれ、息も上がってしまっている・・・顔を上げる力すらない。
霞んでくる視界の中、名前も知らないその女性がゆっくりと近づいてきて、ミリアの顔を手で引き寄せる
 「ふふ・・・いい感じに目がトローンとしてきてるわね・・・」
このとき既に、ミリアの頭は思考する能力を失っていた
相手の声は聞こえているが、何を言っているのかはまるで理解できていない。
 「完璧ね・・・。じゃあ、これから私の言う事に、全て『はい』と答えるのよ」
その言葉が耳に入った瞬間、頭の中で『はい』という単語がグルグルと渦を巻いていく。
やがて、その言葉の意味すら分からなくなる。頭の中が、たった一つの言葉に支配される

 「は・・・い・・・」

 「これからアナタは、私の奴隷になるの」

 「・・・はい・・・」

 「私の命令には、どんな事でも従う」

 「はい・・・」

 「では、命令よ。これからアナタは、私の実験に協力してもらうわ・・・」

 「・・・は・・・」

最後の言葉が口から出そうになった瞬間、扉の開く音がする。
女性は驚いた様子でそちら側を見ると

 「そこまでだ。リベルグ・ロドフォーム」

右手にセイバーを持った男性――ゾンと、その両脇にアル、ナティルがいる。
そのどんなにか待ちわびたであろう声を聞いて、ミリアはハッと我に帰った
 「チッ、あと少しで『平和的な』実験になったのに・・・」
舌打ちした後、その場でニヤリと笑う
 「でも、残念ね。アナタ達も詰めが甘いわ。それ以上近づいたら・・・」
左手に握られているスイッチが、静かに押される――
 「んぐっ! ぐく・・・っ!」
歯を食いしばり、必死に耐えているのが一目で分かる
 「あらあら、仲間が着たからって我慢しちゃって・・・。さっきの悲鳴、また聞きたいわ」
またニヤリと笑うと、更に電圧を上げる
 「うぐっ、く・・・う、うああっ!」
 「ふ〜ん、頑張るのね、この子。
  この位の電圧は普通、体力のあるビーストがギリギリ耐えられるか耐えられないかなのに・・・。
  でも、次電撃を浴びたらもうおしまいね。アナタ達だってこの子を殺したくは無いでしょう?」
3人は臨戦態勢だが、この状況ではうかつに手を出せない。
かといって、ミリアの体力は既に限界を通り越しているはず
次の電撃を浴びれば、間違いなくリベルグの言う通りだ。
 「そうそう。そうやって大人しくしてればいいの。私だって、こんなに貴重な『実験台』を、簡単に殺したくはないもの」
リベルグが病院で使うような注射器を取り出す――中には紫色の、不気味な液体が入れられている
――不意に、ゾンたちの背後から下っ端らしき数人が3人を捕まえ、拘束する
 「さて、と。ちょっと予定は狂っちゃったけど・・・逆に丁度いいわ
  お仲間たちにも実験の成果をお見せする、いい機会だわ」
そう言うと、ミリアに歩み寄っていく――



19話完

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