PHANTASY OF POEMS 20話

 「うふふ・・・」
不敵な笑みを浮かべ、ミリアに近づくリベルグ
一方のミリアは、まだしっかりと思考がまとまらず、何が起きているのか把握できていない様子。
 「や、やめろ! 意味の分からん事をするんじゃねぇッ!」
ローグスに取り押さえられているゾンが必死に声を上げるが、もはや意味は無い。
注射器を持ったリベルグが、ミリアの目の前に立つ
 「ちょっとだけチクッとするけど、我慢するのよ〜」
その声で、ミリアはようやく状況を理解した
 「や・・・だ・・・やめて、やめてよ・・・」
 「今更ダメよ。ほら、いくわよ〜」
注射器がミリアの右腕にあてがわれる
 「や、やめ・・・」

――抵抗空しく、注射器の針が、深々と突き刺さる

続いて、その不気味な紫色の液体が、彼女の身体に流し込まれていく

 「あ、ああ・・・」
絶望の表情を浮かべるミリア
対照的に、不気味な笑いを浮かべるリベルグ。
 「んふふ・・・後は結果を待つだけね。アンタたち、3人を解放してあげなさい」
リベルグは部屋の置くにある、頑丈そうな扉から出て行った。
よく部屋が見えていなかったが、どうやらその扉の上に観覧席らしき窓が見える
そこで実験の様子を見るのであろう。

扉が閉まるのと同時に、ミリアの鎖が外されゾンたちを取り押さえていたローグスが撤退する。
部屋の扉が全て閉まり、完全な密室状態。
しかし3人ともそんな状況には気にもせず、その場に倒れたミリアに駆け寄った
息もあり、意識もあるようだが・・・声を出すほどの気力は無い
 「さて・・・っと」
リベルグの声が部屋に響く。
 「そろそろ結果が現れるわ。成功すれば命の危険は無いし、その子の武器にもなるのよ?
  勿論、失敗するリスクもあるけど。
  まぁ、どちらにしろ私たちはデータも取れるし、成功すれば良いことずくめじゃない」
 「・・・そうだな。だが、お前たちは大きなデメリットを抱えていることに、まだ気づいてないぜ」
窓の向こうのリベルグが、目を細める

 「俺たちが、ここに着ちまったことだよ」

突然、大きな爆発音と共にゾンたちが入ってきた方の扉が吹き飛び、煙がたちこめる
驚いたリベルグは、舌打ちをして消えて行った。
煙の向こうには、人影が一人。
 「待たせた。実験は・・・間に合わなかったか。」
現れた人影――ジェイは、右腕を押さえるミリアを見て落胆した。
 「これ以上被害を出さないためにも、この基地にあるコンピュータを破壊するしかない。
  ナティルと言ったな・・・これ、使え。」
ジェイが渡したのは、先程扉を破壊した巨大武器、グッレ・バズッガ。
その破壊力といったら、ついさっき思い知らされたばかりだ
 「簡単な壁や扉なんかは一発で吹き飛ばせる。
  俺は用事が残ってる。お前たちで情報の流出を食い止めてくれ」
それだけ言うと走り去っていった。
――こうなってしまったら、やるべき事はひとつ
 「アル・・・ミリアを頼むぜ」
ゾンは全速力で建物の奥へ走っていく。
ナティルも追いかける。『いつもの』ナティルのままだ

 「う・・・うぅ・・・」
苦しそうにうなりだすミリア
 「どうしたの、だいじょうぶ・・・」
声をかけるのと同時に、ミリアの身体――右腕から、異様なオーラが漂う
 「アル、逃げ・・・て・・・」
 「えっ? えぇっ・・・」
 「早く・・・」
ミリアは右腕を強く押さえている。
その腕はボコリ、ボコリと隆起しては元に戻るの繰り返し

しかし、突然彼女の右腕が豹変した
ボコボコと腕のいたるところが隆起し、それは元に戻らなくなった
黒く変色していくミリアの腕を見て、アルは腰が抜けたか、逃げる事はおろかその場から動けない。
みるみるうちに、彼女の右腕は自身の頭くらいの太さになり
指先はナイフのように鋭く、色は真っ黒に変色していた。
発せられるオーラの禍々しさもさっきとは比べ物にならないほどになっている
アルは、目を見開いたまま一言呟いた

 「S.E.E.D.・・・」



20話完

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