PHANTASY OF POEMS 21話

SEEDに犯されたミリア――
尻餅をついたまま、一歩も動けなくなったアル――
そんな二人を、まるであざ笑うかのような目で、二人に近寄ってくるリベルグ――
 「どうかしら、気分の方は」
微かににやけた顔で、彼女は一歩ずつ近づいてくる。
 「おかげさまで・・・」
そう言うが早いか、弓を一本取り出しものすごい速さでリベルグに向かって射る
しかし、顔の僅か数センチ横をかすめ壁に衝突――

瞬間、巨大な爆発音が部屋に響き渡る。

 「う、うそ・・・でしょ・・・」
アルが恐怖におののくのも無理はない。
爆発音の元は、ミリアの放った矢――
それが当たったと思われる壁に、大穴が開いているのだから。
ミリアの使った弓も、たった一本の矢を放っただけで、真ん中から真っ二つに折れてしまっている。
もしあの矢がリベルグに当たっていたとしたら・・・アルはそれを想像してもっと恐ろしくなった。
だが、そんな危機的状況であったにもかかわらず
 「うふふ・・・意識の混濁や錯乱も無し。完璧ね・・・」
笑っている。彼女に恐怖というものは無いのだろうか――
 「無事、成功してよかったわねぇ。もういいわ、アナタは用済み。」
そう言うと、素早くミリアの額に、銃を突きつける
 「計画の邪魔をされても困るし・・・今のうちに始末させて頂くわ」
当のミリアは、流石にこれには怯えたようで
 「な・・・っ、約束が、違う・・・」
 「成功したら、『実験による命の危険はない』と言っただけ。その後の事なんて一切何も言ってないわねぇ?」
銃の引き金を、なんの躊躇いもなく引く――

しかし、銃弾は目の前にいたはずのミリアの先・・・壁に当たっている。
 「ふぅん・・・?」
リベルグが床を見ると、ミリアに倒れこむようにしてアルが乗っかっている。
引き金が引かれるほんの一瞬前、ミリアを突き飛ばしたのだ。
アルが立ち上がる。
 「まずは・・・アナタからやる必要がありそうね」
おもむろに取り出したのは、鞭のような武器
いきなりそれを振りかざしたかと思うと
 「う・・・わっ!?」
瞬く間もなく、鞭が巻きつき身体を拘束する。両腕は最早使える状態ではない
リベルグが鞭を引き寄せると、アルの身体も勿論彼女の目の前へ
引き寄せられたアルが見せた一瞬の隙――リベルグは逃さない。
さっきの銃をアルの口に差し込んだ。
 「アナタも色々と、辛かったでしょう・・・? すぐ楽にしてあげるわ・・・」
 「ん・・・ん〜っ!?」
焦りと恐怖で半ばパニック状態のアル。
まさに、2回目の引き金が引かれる瞬間――

 「姉さん!」

銃をアルの口から抜き、声のした方へ向ける。丁度真後ろだ
 「姉さん、もう終わりにしよう。俺たちはここへ来るべきじゃなかった。」
人影がひとつ、ミリアの開けた大穴から現れる
リベルグを姉と呼ぶ、その男性の影は・・・
 「もう遅いわ・・・ジェイ。私の送り込んだSEED達は、もうすぐこの太陽系に到着するわ
  この太陽系は、SEEDで埋め尽くされるのよ」
 「俺たちは・・・そんな事をするためにこの星へ来たんじゃないだろう?
  Aフォトンの危険性を、SEEDの危険性を・・・警告するためにきたんじゃないのか?」
リベルグの目前まで迫るジェイ。
 「この星の文明は、まだ気づいてなかったのよ。
  無限のエネルギーと浮かれる科学者、Aフォトンを動力源にした巨大施設を作り上げたガーディアンズ
  誰一人、このエネルギーの真実を知る者はいなかったのよ」
 「だから、それを警告するために・・・!」
 「遅かったって、さっきも言ったじゃない。
  この文明は、まだ未熟だったのよ・・・成熟していなかったの。それを知るのにも、使いこなすのにも。
  だから、全てをリセットするのよ。遠い過去に起こった、あの戦争のように」
 「姉さん・・・どうして、俺がこの星にきたか、覚えてないのか?
  やりすぎた、行き過ぎた行動を正すため・・・監視するため、俺は来たんだ。」
ジェイが取り出したのは、青白く輝くナックル・・・グッダ・スケラ
 「悪く、思わないでくれ・・・!」

ジェイがリベルグに飛び掛る
リベルグはアルに巻きつけた鞭を手放し、ナックルをかわし飛び出す
かわしていった方向を一度睨み、すかさず次の攻撃を加えるべくリベルグに向かっていく
鞭を手放したあと、すかさずもう一本鞭を取り出し、ナックルを弾き飛ばす――ナックルが宙を舞う
ジェイは次の武器を取り出す。最上級ランクに属するツインクロー、フカミサキ
ナックルと同じように、武器を弾こうと鞭を伸ばすリベルグだが――
その鞭を剣豪が如く一刀両断。さらにリベルグとの距離を詰めようと地を蹴る
二本目の鞭も捨て、ジェイと一定距離をとるように離れながら銃を撃つ――
銃弾のひとつが左手のクローに命中し、フォトンの光が消える――リアクターがいかれたようだ。壊れたクローを捨て
左手に武器が転送される――
しかし、リベルグにそれが何かわからないまま、彼女の左肩が壁から離れなくなった。

 「くっ・・・キサマ・・・」
ジェイが構えていたのは、クロスボウ――
二股に分かれた矢が、彼女の肩を貫き壁に貼り付けにしたのだ。
 「俺に課せられた使命は・・・」
右手のクローを振り上げ
 「姉さんの暴走を、食い止めること・・・」
リベルグの胸に、クローが迫る――

が、リベルグの目前で刃が何か硬いものに突き当たる

 「むっ・・・」
彼女の前に、青白いフォトンの光が壁を成している。
 「LSS(ラティス・シールド・システム)か・・・」
 「この星では、そうも呼ばれていたわね。
  風舞に情報を盗まれて、さもニューデイズの技術と思われているけどねぇ」
肩に刺さった矢を抜き取る。
 「少しは、強くなったわね・・・。でも、もう遅いのよ」
ジェイのクローに、リベルグとは違う方向から一発の銃弾――
 「姉さん! 情報は送れたから、さっさと行こう!」
遠くの方で、ライフルを手にしたキャスト・・・アルテイルがリベルグに叫ぶ
情報とは、ミリアの実験結果のことだろう。
 「安心して。グラールや同盟軍に情報を流すつもりはない。あくまで、私たちの為に使わせて頂くわ」
アルテイルの方へ走り、彼女をさらうように抱えて飛び去った。

 「姉さん・・・」
アルテイルに撃たれ、使えなくなったクローを投げ捨てるジェイ
アルとミリアの方を見て、ひとつ言葉をなげかけた。
その言葉に、二人は一瞬呆気にとられた様な顔をしたが・・・言葉の意味を理解した瞬間、更にわけがわからなくなる。


 リベルグは、俺の姉だ・・・そして、俺たちはグラールの人間じゃない・・・



21話完

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