PHANTASY OF POEMS 23話

ミリアにSEEDが埋め込まれる事件から、およそ1ヶ月ほどが経った。
一番の被害を被ったミリアはいまだ検査入院している。殆ど前例が無い事例の為、やむをえない。
アルも身体の調子が良くないらしく、こちらも近々入院して容態を見ることになっていた。
ナティルは、ガーディアンズを退役していた・・・しかも、現在行方不明となっている。
時々アルと連絡を取っているそうだが、自分の居場所については一切触れられていないらしい。
親友に裏切られたショックだろうか・・・。
そして、ゾンはというと――

モトゥブ、ダグオラ・シティ
このフライヤーベースの近くには、ひとつの酒場がある。
 「ほう・・・?」
酒場の中にはたくさんの人がいる。
その中で、ひそひそ話をする二人の客がいた
 「だから、姉さんが言ってたんだ・・・」
また、酒場に一人客が入ってきた。
 「あの時は・・・だったから・・・ってわけ」
入ってきた客は、マスターと軽い挨拶を交わし、注文もせずに奥の席へと向かっていく
 「それで、その時こうだったから・・・」
一番奥の席で、その客が立ち止まった
 「アイツにアレを・・・ん?」
ひそひそ話をしていた二人が、気配に気づいて顔を上げる
 「やあ、これはどうも」
 「お、オマエ・・・!」
二人のうち、片方の――キャストの女性が驚いた様子で目の前に立っている男を指差す
もう片方、ビーストの男性は驚いた様子もなく冷静にその顔を見つめている。

その男の顔は、紛れもなくゾンであった。

 「不意打ちとは、卑怯なマネを・・・!」
今にも飛び掛ろうとするキャスト――アルテイルを隣に座っていたレヴィンが押さえる。
 「いや、そんなつもりじゃなかったんだ・・・たまたま酒場に入ったら、見知った顔を見つけてな」
対面席の反対側にゾンが座る。
 「そんなのどっちでもいいんだ。さっさと帰りなよ。オマエになんか用はひとつも無い」
アルテイルがまだ不機嫌そうな顔で、ゾンに言い放つ。
 「まあそう言うなって。前々から聞いてみたかった事があってな。取材に来たってワケだよ」
 「それならどこが『たまたま』だ」
ここで今まで口を開かなかったレヴィンが、酒の入ったカップに口を付けながら話す。
 「どっちでもいいってさっき言ったじゃないか」
アルテイルの方を見てゾンが少し笑う
 「大した事は聞かない。少し答えてくれれば酒の邪魔をするつもりも無いよ」

テーブルにコルトバサンドが置かれる。ゾンがさっき注文した物だ
 「ローグスに入った理由?」
目を細める二人をよそに、コルトバサンドを食べ始めるゾン
 「そう。何がきっかけでリベルグの下につくようになったかって、な」
話をしながら、あっという間にサンドの半分以上を食べてしまった。お腹がすいていたのだろうか。
 「ワタシは、姉さんに助けられたんだ。姉さんがいなかったらワタシはとうの昔にスクラップ。
  製造段階でのミスで、右目は見えないし、腕にも力が入らない。
  人間どもはそんなワタシを殺そうとした。けど姉さんは何を思ってかスクラップ工場からワタシを拾ってきて修理してくれた
  そんな姉さんへの恩義だよ。もうわかった?」
 「恩義か・・・なるほど。レヴィンはどうだ?」
あっという間に一皿平らげたゾンが、レヴィンの方に視線を移す。
 「・・・俺は事故で昔の記憶を失くした。
  何をしていいかわからなくなった時、あの人に声をかけられた。
  今でも記憶は戻ってこない。だがあの人は、記憶を蘇らせるための手伝いをしてくれると言った。
  俺も、恩義という点でアルテイルと大差ない」
 「なんとも、人情のあるローグスだな・・・」
水を少し飲む。
 「それじゃ、これで最後だ・・・ローグス、ブラッディ・スターのポリシーは『計画の邪魔をする者には容赦なく』だと聞いた。
  お前らもかなりの人を殺めてるだろう・・・それって、本当に自分の意思でやってるのか?
  どこか、リベルグの手の平で踊らされている気はしないか?」
その質問を聞いた瞬間、またアルテイルが飛びかかろうとする。同じようにレヴィンが押さえる。
 「そんなこと、あるはずが・・・!」
反応を見たゾンは、急に目つきが鋭くなる
 「よく考えてみろよ。お前らだけでもう何人の人を殺した? 公式に発表されてないだけで実はかなりの数と聞いている。
  しかし、トップのリベルグが人の命を奪った数は、ほんの数回もないそうじゃないか。
  どこか、おかしくはないか・・・?」
それだけ言うと、ゾンが席を立つ
 「答えてくれてありがとう。それとこれ、支払っといてくれ」
適当な額のメセタをテーブルに載せる。
席から離れようとした瞬間、何かを思い出したように
 「そうそう・・・最後にひとつ。フレイン・グラスウッドは本当にお前らの仲間なのか?」
 「本人から聞いたんじゃないの? 確かにワタシたちの仲間だ。有能なスパイだよ」
 「そうか・・・邪魔したな」
ゾンは店から出て行った。

 「今更邪魔したなんて、遅すぎるのよ」
悪態をつくアルテイルだったが
 「酒の勢いで・・・随分喋ったな」
レヴィンの一言で、彼女の顔から血の気が引いた。
 「ま、まさか・・・酔って気が大きくなったところを狙って・・・!?
  クッ、ハメられた!」
テーブルを叩く。ドン、という叩いた音と、ガシャン、という食器同士がぶつかり合う音が同時に響く。
大した事を話してないとはいえ、もう後悔しても後の祭りであった。


23話完

22話へ  戻る  24話へ