PHANTASY OF POEMS 27話

影と影の間を掠めるように、一筋の閃光が闇に向かって放たれる

闇に吸い込まれた光は、いずれ巨大な光と、轟音になって目の前に飛び込んでくる。


 「ちゃんと、捕らえてるはずなのに・・・!」
ミリアの放った矢は、ことごとく木の幹に当たっていく。
しかし、この矢をただの矢と侮ることなかれ
当たった瞬間、幹ははじけとび
樹液を溜め込んでボール状になった、シコン諸島に生える樹木独特の根が
水風船を割ったかのようにして爆発し、辺りを濡らしていく。
このシコン諸島を形成している強固な根を、いとも簡単に。
たとえ同盟軍のストライカーが相手でも、たった一本の矢で大破しかねない威力なのだ
ましてそれを人間に使うとなると、ちょっとでも掠ればどうなるかはいちいち説明せずともわかるであろう。
しかし、風舞のスピードの前では、どんなに射ってもかわされてしまう。
更に、ミリア自身SEED化した腕の力をまだ完全に制御しきれていないため
わずかなブレがわずかなコントロールミスを生み、矢を外してしまう。
 「・・・ッ!」
また一本、超高速の矢が放たれる。
――が、これもまた風舞の身体に触れることはかなわなかった。
矢は木々を通り抜け、遠く離れた場所にあった根を吹き飛ばした。
木を伝って飛ぶように移動する風舞は、それを見ることなくある木の幹に飛びついたかと思うと
その反動でターンするように飛ぶ方向を変える――

ちょうど、それはミリアのいる方向。

 「ひぅ・・・っ!?」
あまりに突然のこと。
風舞が猛スピードで迫ってきたことまでは把握できていた。
しかし、次の瞬間にはその姿はなく
あるのは自分の首元に剃刀で傷をつけられたような痕だけだった。
 「ど、どこに・・・ッ」
傷は浅い――どうやら紙一重で致命傷はまのがれた。
後ろを振り向けば、およそ10メートルほど先に風舞の姿がある。
この距離なら、外すことはまず無い・・・矢を番え、弓を構えた瞬間
 「いっ・・・?」
左腕に刺すような痛みが走る。
弓を下ろし、腕を見る――肩の辺りが真っ赤に染まっていた
 「狙いは、こっちだったか・・・」
これでは繊細なコントロールを要する弓など扱えるはずが無い。風舞はジリジリと10メートルの差を詰めようと近づいてくる
ミリアも、相手をにらみながら少しずつ後退していく――

一歩、前に進む

一歩、後ろに退く

一歩、前へ。一歩、後ろへ。

一歩、前へ。一歩――

 「・・・あっ」
ミリアが足を止めてしまう・・・いや、止めざるを得なかった。
何か、背中に当たった感触に刺激され、思わず後ろを振り向いたのだ。
大きな木が、行く手を阻んでいる
――刹那、風舞が"何か"を放った
ミリアが視線を前に戻した時には、それは既に幹に突き刺さっていた。
 「しまっ・・・」
風舞が投げたのは、手裏剣。
ミリアの服と幹を繋ぎ止め、身動きを封じていた。
風舞は小刀を持ち、とどめの一撃といわんばかりに迫ってくる
――万事休す。誰もがそう思った。




・・・しかし、いつまで経っても断末魔の声は聞こえない。

風舞は既に間合いを取るように後退していた
ミリアに起こった異変を感じ取り、距離を置いたのだ。
目を静かに閉じているその姿からは、なにもおかしな場所はないように見える。
しかし、明らかに異質な空気が、"熱気"が周囲を漂っている。
 「煮えたぎる、大地の力・・・」
動きを封じていた鉄の塊が、みるみるうちに融けていく
身体に纏っていた衣服は、全て焼け落ちている。
 「少しだけ、お借りします」
SEEDと一体化した、黒く巨大な右腕を天に突き出す
まるで太陽のように輝き、地の底に眠る溶岩のように赤い、光の球体がそこに現れる。
苦し紛れか、風舞が手裏剣を投げつける
――が、それはミリアに当たる前に融けてなくなってしまう。
 「地獄を焼き尽くす、天からの業火・・・
  レジェンダリー・フォイエッ!」
光の球体が風舞を襲う――
本当の万事休すは、こちらの方だった。



27話完

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