PHANTASY OF POEMS 28話

シコンの島の木々を縫うように駆け抜けるひとつの影
 「ッチ・・・まだ追いかけてくるのか」
その少し後方に、同じように影がもうひとつ
 「逃げ足ばっかりはええな・・・!」
二つの影が広場に出た。周囲は木の根と岩壁で覆われた、洞窟のような場所。
 「さあ、いい加減逃げ回るのも終わりにしようぜ」
逃げていたほう・・・アルテイルが丁度部屋の隅に逃げてしまい、ついに逃げ場を失った格好になった。
追いかけていたジリーが部屋の隅に追い込んだのだ。
アルテイルは持っていたライフルを投げ捨て、ショットガンに持ち替えた
逃げていた時の威嚇射撃で弾を使い切ったのだろう。
一方のジリーはスピアを取った。
 「やる気かよ?」
 「みすみす捕まるほど、バカじゃないわ」
ショットガンが火を噴く。
バックステップでかわすが、アルテイルは次々と次弾を発射していく
これでは近づけない。
 「ガキじゃねえんだし、真面目に狙ったらどうだ?」
そんなジリーの挑発も一切聞かず、弾幕を展開し続ける
――確かに、こうされては近接攻撃のジリーには相当やりづらい状況になる。
しかし、ある程度距離をおけば弾は一切当たらない。
 「めんどくせえ・・・一体何を考えている」
相手に聞こえないくらいの小声を漏らしつつ、思考をめぐらせる――

時間稼ぎ――その言葉が浮かんだ瞬間、ジリーの頭の中では数手先の未来図までもが想像できた。

アルテイルはブラッディ・スターのナンバー2
当然、それ以下の人間をいつでも援軍として呼べるはずである。
 「となりゃ・・・さっさと片付けねえとな・・・!」
ショットガンには発射後、わずかな隙ができる。
それはほんのコンマ1秒だが、ジリーにとってはそれで十分だった。
 「いい加減に・・・しろぉ!」
怒号一番、スピアを地面に突き立てショットガンの射程範囲外から一気にアルテイルのところまで跳躍――
一瞬驚いて固まったアルテイルの抱えている武器を蹴飛ばした。
 「援軍は間に合ったか?」
 「キ、キサマ・・・!」
思わず素手で殴りかかるアルテイル
だが、ビーストのジリーに対してそれはあまりにも無謀な行動だった。
アルテイルの拳をあっさり掴み、そのまま投げ飛ばし
7メートルほど転がったところでようやく止まった。
 「俺は今、この瞬間も、仲間を殺した罪に苛まれ続けていた。
  だが、俺はここでお前を倒す・・・その為の力なら、仲間だって許してくれるはずだ・・・!」



ジリーの身体が、青白い光に包まれていく――

巨大な、赤き獣がその姿をあらわにする。

それは、ずっと封印し続けてきた、禁断の力

それは、仲間を殺した悪しき拳

それは、同時に――

 「ウオオオオ!」

悪しき心を絶つ、正義の拳





 「クッ・・・これじゃ、クスリを使う意味がない・・・!」
アルテイルはハンドガンで苦し紛れの牽制をする
しかし、ジリーはいとも簡単にそれを跳ね除けてしまう。
むしろそれが引き金となったようにして、ジリーがアルテイルに向かって突進する――
逃げようと立ち上がる――間に合わない

ジリーの拳が、アルテイルにぶつかる――

まるで車に撥ねられたように吹き飛び、壁に叩きつけられた。
 「ウ・・・グク・・・」
全身から紫電を放出している様子から、駆動機関はもはや使い物にならないだろう。
歯を食いしばるアルテイルだが、身体はピクリとも動かない。
ジリーが歩み寄ってくる
 「く・・・殺すなら・・・殺せ・・・!」
目を瞑るアルテイル。
何も言わぬジリーは、アルテイルの前に立つと、ゆっくり腕を振り上げ――
そのままゆっくりおろし、彼女を抱き上げた。
 「なっ、キサマ・・・」
とどめの一撃は結局無く、彼女を抱いたままジリーは元の姿に戻った。
 「ナゼ・・・!」
噛み付こうとしたアルテイルだが、身体が言うことを全く聞かない。
 「人を殺した時の後悔は、お前のほうがよく知ってるはずだ。
  お前には、まだ生きなきゃいけない理由がある。俺には、それを背負うことはできない。」
 「人をこんなにしておいて、よくそんなことが・・・! 姉さんだってこんなの直せるわけが・・・」
 「心配いらん。メカニックの天才が、仲間に一人いるもんでね」

アルテイルを抱いたまま、ジリーは歩き出した。



28話完

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