PAHNTASY OF POEMS 30話

次々と飛来してくる赤い塊
大地に突き刺さると同時に、その巨大な根が地を這い、赤く汚していく。

またひとつ、今度は黒い塊が、地面に突き刺さる
しかし、それはすぐに大地から離れ、また何処かへ飛び立っていった。

人の影だった。それも、ふたつ。
ひとつは逃げているように見え、もう一つはそれを追うように見えた。


 「んにゃろ、あんな格好でよくもそんなスピードが・・・!」
追っている影・・・ゾンが恨めしそうに前方を走る人影、リベルグを追い続けている。
ローブのようなロングスカートを身に纏っていながら、軽々と木から木へ飛び移ったり、落着したSEEDコアを飛び越えたり。
 「ったく・・・しょうがねえなあ」
おもむろに、セイバーを一本取り出して
 「いい加減に・・・」
リベルグに向かって、投げようと――
 「止ま・・・っておいおいおい!」
不意にリベルグの足が止まった。ゾンには背を向けたままだ。
ゾンも慌ててブレーキをかけ、リベルグの前で止まる。
 「やっと追いついたぜ・・・」
ため息を漏らすものの、疲れている様子はない。
 「あんたにゃ色々と貸しがあるんでね・・・返す気がないみたいなんで」
先程取り出したセイバーを顔の前で構える。
リベルグの方は、いまだ振り向くことは無く、何の動きも無いように見える。
 「こちらから頂きに上がったわけだ・・・!」
背中めがけセイバーで斬りかかる――
だが、その一撃は目標のわずか手前で、『壁』にぶつかった。
 「その程度の力なら、もう少し滞納してても大丈夫そうね」
ここでようやくリベルグが振り向き、いつもの不敵な笑いを浮かべる。

L.S.S.――ラティス・シールド・システムによる光の壁が、目と鼻の先にいるはずのゾンとリベルグを遠く、大きく隔てていた。

 「そう言っていられるのも・・・今のうちかもしれないぜ?」
 「何?」
瞬間、わずかに『壁』をセイバーが貫いた――
しかし、リベルグの頬に傷をつけるまでが精一杯だった。
 「フン・・・私を動揺させようとでも?」
数歩ゾンから離れ、またシールドを展開する。
 「現に、一瞬だが動揺してたじゃないか」
 「チッ・・・」
舌打ちするリベルグ。
 「L.S.S.はヒトの精神力を利用して出力を制御していると聞いた。
  それなら、集中力を削ぐことができれば・・・」
突然、ゾンが手を空に向かって突き上げた。
 「Come on. My S.U.V. weapon...」
その言葉が合図となってか、ゾンの後方からリベルグに向かって巨大な光の塊が飛び込んできた――
否、それは光の『塊』ではなかった。
 「督促状のプレゼントだぜ」
無数の光の銃弾が、巨大な塊を形成しているように見えたのだ。
もはやゾンの居場所がどうのという問題ではなかった。
 「クッ・・・!」
逃げようにも迫りくる弾幕にそのような余裕は存在しなかった。
シールドの出力を前方に集中させ、なんとか被弾しないようにするだけで精一杯なのは誰が見てもわかった。
光の塊が、リベルグに襲い掛かった――

 「フフ、なんてね」
不敵な笑みと共に、背後から襲い掛かる一太刀をさらりとかわした。
銃弾は全てダミーだったのだ。

 「フン、ハッ」
 「そう、こなくちゃ!」
リベルグもセイバーを取り出し、斜め斬り、横斬りを組み合わせる
それらを上手く受け流す角度で剣を振るうゾン
 「随分、可愛い、SUVウェポン、じゃない?」
 「あの、程度で、ビビるとは、思わん!」
連続斬りを繰り出すリベルグに、一度は受け流し、横っ飛び、バック転で切り抜けた
距離ができて、一瞬の静寂が訪れる。

――それを破ったのは、ヒトの崩れ落ちる決して大きくない音だった。



 「・・・よい夢を」
倒れたのはリベルグの方だった。ゾンが歩み寄り、拘束用の器具を取り出していた。
 「上手くいったのか」
 「ああ、このとおり」
先の光の塊が現れた場所から、今度は人影が現れた。
 「すまなかったな。俺の我侭を聞いてもらって」
ジェイだった。その手にはライフルが一丁。
 「よく思いついたもんだ。ダミーの光弾と俺を使って、催眠弾を当てて眠らせるとはな」
 「然るべき姿で、故郷に帰りたかったからな」
眠っているリベルグをジェイが抱き上げた。

 「それより、さっきの話・・・本当に、いいのか?」
何か念を押すような声。
ゾンは悩むようなそぶりも見せず、空を見上げ
 「案内はしてくれるんだろ?」
 「ああ、勿論だ」
 「そんなら、それ以上聞くな」
不意に、空から何かが近づいてくるのを見つけた
 「やっときたか・・・危うく計画がおじゃんになるとこだったぜ」
近づいてくる『何か』に、ゾンは手を振りはじめた。



30話完

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