PHANTASY OF POEMS 31話

赤い炎と、青い炎がある。


赤い炎は、熱く燃え盛り・・・木々を焼き、大地を赤く染める。

青い炎は、冷く燃え盛り・・・木々を冷し、大地を赤くした元凶を絶つ。



ニューデイズの大地は、赤く染まっている。赤い炎の所為だ。
人々は、赤い炎を絶つ為に・・・青い炎を取り出した。
青い炎・・・それは、人々が"作り出した"炎
炎・・・フォトンイレイザーと呼ばれるそれは、赤く染まった大地に対抗する、唯一の手段だ。




 「おしまいにゃー!」
まっさらになった平原のど真ん中で、キャティが叫ぶ。
今しがた、全ての落着SEEDを浄化し終えたのだ。
 「最初は終わらないんじゃないかと思ってたけど・・・何とかなったね」
レインも安堵の表情を浮かべる。
 「お腹すいたにゃ〜。支部に帰ったら何か食べたいにゃ」

 「いや・・・まだだ・・・」

 「え?」
すっかり緊張感の無くなったキャティとは対称的に、空を見上げたまま動かないレイス。
そして、レイスが今まさに、次の言葉を発しようとした瞬間――
 「姉ちゃん、上――!」
 「にゃ・・・?」
音も無く忍び寄っていた悪魔が、魔神のように刃を振りかざした
咄嗟に逃げようとするが、振り下ろされた刃から逃れられる手段は、一つとして存在しなかった。
 「姉ちゃん!」
レインの呼びかけにも反応が無い。
悪魔の足元に横たわったまま、動かない。
どす黒い赤と、妖しく光る青――
 「SEED・・・ヴィタス・・・」
耳障りな唸り声をあげ、巨大な緑色の塊を放出してくる。
 「姉ちゃん・・・!」
レインには、もはや目の前にいる巨大なSEEDなど、眼中に無かった。
捕らえているのは、その足元に横たわる、小さな人影だけだった。
 「ちくしょおおおぉぉ!」
 「おい、待て――!」
制止の声など耳に入るわけが無い。
全速力で、一直線に、人影へ向かって走る。迎撃するSEEDの攻撃よりも、はるかに速いスピードで。
そして、人影を抱きかかえ――十分に離れた距離まで走り抜けた。



 「姉ちゃん・・・姉ちゃん・・・」
何度レインが呼びかけても、キャティは目を開かない。
SEEDはレイスのSUVウェポンによって、鎮圧された。
しかし、キャティの意識はいまだ戻らない。
腹部から、大量に血が滲み出している。
 「手出しができない事が、余計に苛立たしいな・・・」
モノメイトなどといった類の薬を使うことは当然できない。
また場合にもよるが、基本的にレスタなどのテクニックも効果を発揮しない。
自分の自然治癒能力を増幅させるテクニックである為、意識が無い状態では効力が期待できないのだ。
 「う・・・にゃ・・・」
かすかに、目が開いた。
 「気がついた、のか・・・?」
それまで全く力のこもっていなかったキャティの手が、弱々しくだがレインの手を掴んだ。
 「レイン、痛い・・・おなか、痛いよ・・・」
いつもの彼女からは想像できないほど、声には力がなかった。
まるで、捨て猫が助けを求めて鳴いているように。
 「しゃべったら余計痛むよ。ちょっと我慢してて」
普段一切落ち着きのない、それこそ小動物のようなキャティだが、こればかりは大人しい。
レインが傷口に手を当て、意識を集中させる
青白く、それでいて柔らかな光が、レインの手を――キャティの傷を包み込んでいく。

 * * *

いつしか、レインに身体を預けるように、キャティは目を閉じていた。
 「姉、ちゃん・・・?」
閉じられた瞼からは、一切の力みが無い。
安心しきったような、例えるならば――とても、安らかな顔。
 「まさか、冗談だろ・・・」

それは、まるで


眠っているようで――



 「・・・いや、寝てるだけだろ、それ」
不意に、その場にいた全員が後ろを振り向いた。
若干呆れ気味な苦笑を浮かべるゾンの姿が、そこにはあった。



31話完

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