PHANTASY OF POEMS 32話

眼下に広がる大地は、少しずつではあるが普段の静寂を取り戻しつつある。
ガーディアンズ総動員で行われた浄化作戦の賜物だ。
赤い大地も、空から見る限りでは後僅かしかない。

 「で。結局のところ、あいつらは騙されてたってだけだったのさ」
ゾンが操縦席の隣席から後ろに話しかける。
浄化作戦を終了させたレイスとレインを大型フライヤーに乗せ、今までの経緯を説明していた。
不意の襲撃で負傷したキャティは、二人の後ろの席で横になっている。まだ眠ったままだ。

ローグス・ブラッディスターはSEED飛来事件以前はほぼ無名といってもおかしくない程、小規模だった。
むしろローグスとは名ばかりの、モトゥブのごく限られた地区の商品流通を担っていただけ。
それが、突然頭角を現し、いつの間にかならず者たちからも恐れられる存在となっていったのだ。
 「その仕掛け人が、ボスのリベルグ・・・ってワケだ」
ゾンは隣席の操縦者のサポートをしつつ、そうまとめた。
 「ヒューマンがボスというだけで珍しいだろうに、そんな底辺からのし上がってきたのか」
 「ああ、ひとつ言い忘れたな。あいつはヒューマンじゃないぜ」
 「そうだろうな。もはや種族の定義に当てはまらない存在なのかもしれないな」
そこまでレイスが言ったところで、怪訝な顔をするレインと顔を見合わせる。
 「ヒューマンじゃない・・・?」
自分で言った事なのに、わけがわからないといった風のレイス。
 「正解」
しかし、ゾンが指とパチン、と鳴らしてそう言った。
 「あいつは・・・いや、あいつらは、俺達の常軌を逸した存在にあったんだ
  考えてみろ。無名のローグスがたちまちそんなにでかくなるのは、何かしらの力が働いてるからに決まってるだろ?
  そして、その始まりは"ある日"と一致するんだ」
 「まさか・・・SEED・・・」
それきり、ゾンは話題を浄化の進捗状況に変えてしまった。

 「ま、一応この星は約80%近く浄化が終わった事になる。
  今のところ被害は甚大というだけしか分からん。犠牲者も山ほどでてる。
  俺達の中でも、無事だったのはここにいるメンツだけだ」
辺りを見回してみれば、ゾン、レイン、レイス、キャティのほかには、キャティの隣で座ったまま寝ているジリーだけだ。
いるとすれば、ゾンの隣にいる操縦者くらい。
 「まさか・・・」
レインが息を呑む。つい数時間前には、もっと人数がいたはず――
 「不安を煽るような事を言ってどうする。彼らはなにも知らないんだろう? そこまで説明をしているんだから」
不意に、操縦席から声が聞こえた。いままで一言も話さなかったので、女性の声がして多少驚いていた。
 「俺は本当の事を言ってるだけだろう? "無事"なのは俺達だけだって?」
 「すまないな、私から注釈を加えよう」
ゾンを軽くスルーしつつ、そう言って後ろ――レインたちのほうを振り向いた。

その顔には、見覚えがある。だが、しかし
 「ん・・・あれ・・・?」
 「・・・?」
二人の知っている女性とは、確かに姿はそっくり――いや、そのまんまなのだが
その話し方、声、それになにより・・・目の鋭さが違っていた。
 「はは、流石にみんな戸惑うか」
 「当たり前だっつーの。前が前だっただけに余計にな」
半ば呆れ顔のゾンとは対称的に、戸惑いを隠せないのはレイスとレイン
それこそ、何かの間違いじゃないか、と疑ってすらいる。
 「あなたは・・・もしかして・・・」
それでもようやくレインが口を開いた。
 「そのもしかして、だ。声色まで変わってしまったが、ナティル・イェーガーだ。
  色々と聞きたいことはあるだろうが・・・それは追々話すから、今は聞かないでほしい。
  それより。他の仲間は別室で安静にさせている。
  アル、ミリアともにひどく消耗した状態で見つかったんだ。特に、アルのダメージは甚大で――」
続きを遮るように、ゾンが手を出した。
 「今はもう一人の仲間・・・というより、中立の人間に様子を任せてある。
  この星じゃ手に負えないだろうから、俺達はこのままコロニーまで行く。それまではここから動かないでくれ」
 「何を言って――」
立ち上がるレインをとめたのは、レヴィン。
レインの方を見ることなく、ただ一言
 「察しろ」
大人しく、指示に従う外なかった。

次第に、周囲の景色が赤みを増してくる。
眼下の大地は、いまだ浄化が完了していない地域のようだ。
燃えるように赤い"花"が、至るところに根をはっているのが見える――

――突然、フライヤーが大きく傾く。
 「どうした!?」
ゾンが隣を見る。
操縦桿を目一杯まで切ったナティルが、どこか一点を凝視していた。
どうやら、その場所へ向かっているらしい。フライヤーの速度も急上昇した。
 「何かあったのか?」
 「――!」
ナティルは答えない。
というより、ゾンの声が全く耳に入っていないといった様子だ。
異変に気づいたレインたちも立ち上がって操縦席を見る。
 「誰か、倒れている」
ナティルの目線を追ったレイスがいち早くそれに気づいた。
手付かずとなっているエリアなのだろうか、全く浄化されている気配が無い。
そのど真ん中に、倒れた人影があった。
近づいていくにつれ、その容姿が判別できるようになってくる
 「あいつは――」
次の言葉が出る前に、突然ナティルが立ち上がった
 「ゾン、操縦を任せる」
瞬時に言葉の意味を察知し、既に空席となった操縦席に乗り込む
 「時間が無いぞ」
 「2分。それで戻ってこなければ、先に行け」
フライヤーの着陸を待たずして、ナティルは赤い大地へ飛び出していった。
――『親友』を助ける為に。



32話完

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