PHANTASY OF POEMS 34話

事態発生から1ヶ月。侵食は、終わりを迎えた。

ガーディアンズが部署を問わず、一致団結して浄化活動を行った賜物だろう。

ニューデイズは、その多くを破壊されてしまったが、元の静寂さを取り戻していた。

そして、このSEED事件の原因となった、HIVEと呼ばれる人工衛星の成れの果てを
同盟軍によって破壊する作戦が進められていた。
次第にSEEDの正体も突き止められつつあり、事態は確実に解決へと進んでいた。

その裏で。

 「本当に、行くつもりなんだな」
ガーディアンズ・コロニーの宇宙船ドッグ。
ナティルの目の前には、巨大な宇宙船と、人影が二つ。
 「なにもお前が行かなくたって、私が行っても良かったんだぞ?」
そんな言葉で、ゆれるはずが無い。
 「あれは、お前の死に場所じゃないぜ」
返ってくる言葉なんて、容易に想像がつく。
メンテナンスを終えたゾンが、最期の挨拶にと、ナティル一人を呼び出したのだ。

事の発端となったローグスの長は、ゾンの戦友ジェイと姉弟関係にあり
二人はSEED事件の原因とされている、HIVEからの使者。
Aフォトンの危険性を、行き過ぎた文明に警告するために。過去の大戦と、同じ悲劇が起きない為に――
しかし、姉は見限ってしまった。この文明は救えない、と。
ニューデイズの侵食騒動も、事の発端はここからだった。

 「ジェイは宇宙船の運転ができないしな。二人を『在るべき場所』に還すのは、俺の役目だ」
ゾンは、二人の故郷――HIVEに向かう。
これ以上の被害を出さないためにも、狂乱の使者を――リベルグを、確実に封印するために。
 「アルとミリアには・・・何も言わないでくれ。余計な事で心配はかけさせたくない」
 「だからこそ、私しか呼び出さなかったんだろう? お前こそ心配しなくていい。こちらの事は任せておけ」
アルもミリアもかなり回復し、病床では元気な姿を見せている。
だから、余計に気を使わせたくなかったのだろう。
 「そういえば、結局"その顔"で生きる事にしたんだな」
 「ああ。もう自分に嘘をつくことは止めにした。私は私だ。他の誰でもない」
清々とした顔で笑って見せた。
自分に迷いは無い。もう心配要らない。そう伝えるかのように。
 「・・・これで、最後の悩みの種も消化だ。安心してHIVEに乗り込めるぜ」
ゾンも笑って返した。
ナティルは、その顔を絶対に忘れるまいと、心に焼き付け――
 「・・・行ってこい」
そして、力強く右手を出し、親指を立てた――。

 * * *

 「・・・行ったよ」
一隻の宇宙船が飛び立ったのを見届けてから、ナティルが呟いた。
ゾンには絶対見つからなかっただろう場所に、小さなマイクがついている――
ゆっくり、イヤホンを耳に当てた。
俯いたその顔を、ハッキリと見る事はできない
しかし、頬を伝う雫は、ハッキリと――スローモーションのように流れ落ちていく。

――雫が一粒、地面に落ちた

それを待っていたかのように、イヤホンの向こうから二人分の泣き声が木霊した。


それはまるで、肉親を亡くした姉妹の叫びを、聞いているようだった。



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